日本電信電話(NTT)が開発した,印加電圧により屈折率が変化する「電気光学結晶」の一種であるKTN(タンタル酸ニオブ酸カリウム)を用いた可変焦点レンズの原理図
日本電信電話(NTT)が開発した,印加電圧により屈折率が変化する「電気光学結晶」の一種であるKTN(タンタル酸ニオブ酸カリウム)を用いた可変焦点レンズの原理図
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KTNを用いた可変焦点レンズ素子。1個ではシリンドリカル・レンズとして機能する。不透明に見えるが,これはKTNが温度により透明度が変化する性質があり,撮影時は透明になる温度ではなかったためだという
KTNを用いた可変焦点レンズ素子。1個ではシリンドリカル・レンズとして機能する。不透明に見えるが,これはKTNが温度により透明度が変化する性質があり,撮影時は透明になる温度ではなかったためだという
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KTNの単結晶と,KTNを用いた可変焦点レンズ素子の大きさ比較。写真右の単結晶の数倍の大きさの結晶を安定的に製造できるという
KTNの単結晶と,KTNを用いた可変焦点レンズ素子の大きさ比較。写真右の単結晶の数倍の大きさの結晶を安定的に製造できるという
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KTNを用いた可変焦点レンズ・モジュール。温度調整のペルチェ素子を利用している
KTNを用いた可変焦点レンズ・モジュール。温度調整のペルチェ素子を利用している
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 日本電信電話(NTT)は,印加電圧により屈折率が変化する「電気光学結晶」の一種であるKTN(タンタル酸ニオブ酸カリウム、KTa1-xNbxO3)を用いた可変焦点レンズを開発した(発表資料)。焦点距離の調節に要する時間は1μsと短い。PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)などを使った既存の可変焦点レンズに比べて,1000倍速いという。例えばKTNを使った光ビーム・スキャナ(Tech-On!関連記事1)と合わせて使うことで,3次元のビーム・スキャンが可能になるとする。

 直方体に切り出した結晶の正対する2面に,間隔を置いて平行に2個ずつの電極を配置した。一つの面を正極,もう一つの面を負極として電荷をかけると,電極と電極の間にも電界が染み出す。この電界の分布により電極と電極の間の屈折率の値が連続的に変化し,凸レンズとして機能する。焦点距離は印加する電圧の2乗に比例して変化する。これにより,距離を調節できる。素子1個では線に集光するシリンドリカル・レンズとして機能するため,素子2個を組み合わせることで点に集光するレンズとして利用できる。焦点移動距離は,f=25cmのレンズと組み合わせて1kVの電圧を印加したときに4cmである。

 NTTは2003年に,KTN結晶の安定的な成長技術を開発した(同2)。2006年5月には,KTN結晶に電流を流すと電界の傾斜が生じ,結晶内部の屈折率の値が連続的に変化した分布を成すことを利用したビーム・スキャナを開発している(同3)。今回の可変焦点レンズは,ビーム・スキャナとは異なり,結晶に電流を流さない。

 2009年3月26日に開催した発表会で展示したレンズ素子は不透明に見えるが,これはKTNが温度により透明度が変化する性質があるためだという。透明度が高くなる温度は,KTNのTaとNbの割合を調節することで「0Kにごく近い温度から400Kくらい」(NTT)の範囲で設定できるという。従って,レンズとして利用するときには,設定温度に一定に保つ必要がある。レンズの寿命は現時点で「1万時間までは確認した」(同社)という。

 NTTは今回の成果を,2009年3月30日~4月2日に筑波大学(茨城県つくば市)で開催される「第56回応用物理学関係連合講演会」で,3月31日に発表する。