もちろん,シンプルと言っても,ローエンド品にしてはいけません。その加減が難しいことは確かですね。コモディティのハイエンド品で世界のインフラを作る。それは日本でもできないことではないんですよ。任天堂の家庭用ゲーム機などは好例でしょう。消費者がメーカーや技術者にやって欲しいと思っていることは,まだたくさんあると思います。

 もし,日本メーカーに家庭の情報化を実現する力がないというなら,それは大問題ですよね。できるできないじゃなくて,やらなければならないんですよ。「やらなければ会社はつぶれまっせ」ということやからなぁ。

失敗しない経営は,次の時代に失敗の種を残す

 キャッチアップ時代が終わって,本当の経営が必要な時代になったということでしょうな。幸之助さんは「切り殺されたら終わり。失敗は許されない」と言っていました。この考え方は,右肩上がりのキャッチアップ時代は正しい。でも,現在のようにリスクが高い経営判断をして試行錯誤しながらビジネスを進めていかなければならない時代には,それを金科玉条としても何の役にも立たない。

 「失敗をしない」経営は,次の時代に大きな失敗の種を残します。結果というものは,実際にやってみて初めて出るわけだから,やらなければ何が起きるか分からない。そういう意味で,どんどん自社の姿を変えられるメーカーが日本には少ない。既存のビジネスを蹴飛ばしてでもやらない限りは,家庭の情報化で世界のイニシアチブは取れない。

 米国は,日本にハードウエアでやられたから「情報化社会」という新たなコンセプトの戦略を打ち出し,先に進んだ。後ろからは日本のキャッチアップ・モデルを学んだアジアの企業が追いかけてくる。米Google社のような新しい企業が出てきて,家庭をターゲットにしている。ぐずぐずしている間にも,日本メーカーの出口は狭くなっています。それを突破しなければならない。

 しかし,まぁ,最近は凄い勢いでリストラしてますなぁ,日本メーカーは。経営陣は,社員をクビにする前に自分のクビを考えた方がええと違いますか。社員が辞めなくて済むようにするのが本当の経営。簡単にリストラするのは,米国式経営の良くない影響なんでしょうな。

 幸之助さんもリストラはしているけれど,社員を辞めさせるのは自分の身を切るよりつらかったから,最後の最後までやらなかった。仕事ができない連中でも,会社に置いておいた。今の状況で彼がどう行動するかは分かりませんが,社員をクビにしたら経営者としては失格と考えることは間違いないでしょう。経営者はそれを一番恥ずかしいことだと思わなければならないのです。(談)

(聞き手は日経エレクトロニクス 高橋史忠)