NTTアドバンステクノロジ(NTT-AT)が発売する,印加電圧により屈折率が変化する「電気光学結晶」の一種であるKTN(タンタル酸ニオブ酸カリウム)を用いた光ビーム・スキャナの評価用サンプル・モジュール
NTTアドバンステクノロジ(NTT-AT)が発売する,印加電圧により屈折率が変化する「電気光学結晶」の一種であるKTN(タンタル酸ニオブ酸カリウム)を用いた光ビーム・スキャナの評価用サンプル・モジュール
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NTTアドバンステクノロジ(NTT-AT)が発売する光ビーム・スキャナの評価用サンプル・モジュールの内部
NTTアドバンステクノロジ(NTT-AT)が発売する光ビーム・スキャナの評価用サンプル・モジュールの内部
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今回の光ビーム・スキャナで用いる電極付きのKTN。長辺の長さは約6mmと小さい
今回の光ビーム・スキャナで用いる電極付きのKTN。長辺の長さは約6mmと小さい
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左手前のサンプル・モジュール(2次元走査品)から,スキャンしたレーザ光を約1m先に投影したところ
左手前のサンプル・モジュール(2次元走査品)から,スキャンしたレーザ光を約1m先に投影したところ
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 NTTアドバンステクノロジ(NTT-AT)は,印加電圧により屈折率が変化する「電気光学結晶」の一種であるKTN(タンタル酸ニオブ酸カリウム、KTa1-xNbxO3)を用いた光ビーム・スキャナの評価用サンプル・モジュールを発売する(発表資料)。日本電信電話(NTT)が開発して2006年5月に発表した技術(Tech-On!関連記事)に基づく。既存のビーム・スキャナに比べて,「体積は1/100,動作速度は100倍」(NTT-AT)とする。なお,NTTはKTN結晶を用いた,印加電圧によって焦点距離を変えられる可変焦点レンズを開発し,併せて発表している(同2)。

 モジュールの外形寸法は約6cm×3cm×2cmと小さい。重さは110g。光ファイバでレーザ光を入射して使用する。光源は別に用意する必要がある。入射光の波長範囲は532n~4000nmと広い。印加する電圧に応じて,偏向角が最大10度(±5度)の範囲で1次元の走査が可能。動作周波数は電源性能によるが,最大100kHz。温度制御用の機材や電圧を制御できる電源,制御用ソフトウエアなどをオプションで用意する。また要望があれば2次元走査が可能なモジュールも提供するという。2009年6月2日に発売する。サンプル価格は1次元走査の基本モジュールが約600万円。2次元走査品に制御用の機材やソフトウエアなど一式を含めた場合の価格は1200万~1500万円である。

 今回のモジュールは,研究機関や企業の研究開発部門に向ける。KTNを用いた光ビーム・スキャナの用途としては,レーダやレーザ・スキャン・ディスプレイ,レーザ加工,3次元計測,光通信などを想定する。さらにNTT-ATは,新しい用途の開拓に意欲を示した。「KTNを使ったビーム・スキャナは自由度が高く,今までできなかったことができるようになる。まずは今回のモジュールを研究・開発部門の人に使ってもらい,さまざまな意見を聞かせてもらう中で,新しいアプリケーションが生まれる可能性がある」(NTT-AT)とした。

 NTT-ATは今回のサンプル品を,2009年5月31日~6月5日に米国メリーランド州ボルチモア市で開催される「CLEO/IQEC 2009(the 29th Conference on Lasers and Electro Optics and the 27th International Quantum Electronics Conference)」の併設展示会「PhotonXpo」(展示会は6月2~4日開催)に出展する。

高速かつ広角にスキャン可能

 KTNを用いた光ビーム・スキャナの原理は2006年5月に発表した,「空間電荷制御モード電気光学効果」と名づけた現象に基づく。KTN結晶に電流を流すと電界の傾斜が生じ,結晶内部の屈折率の値が連続的に変化した分布を成す。これにより光路が大きく変化する。さらに印加する電圧により,光路の変化の度合いを制御できる。機械的な駆動部分がないため,既存の可動ミラー型の光ビーム・スキャナに比べて2ケタ高速化できるとする。スキャン周波数は最大1MHzが可能という(ただし,今回発売するモジュールは最大100kHz)。

 MEMSや音響光学結晶,他の電気光学結晶などを利用した既存の光ビーム・スキャナでは,動作周波数とスキャン角度がトレード・オフの関係にあったが,KTNを用いた場合は,高速での動作が可能でありながら広角のスキャン角度を持つとする。印加する信号電圧がアナログ信号であれば連続的なスキャン動作が可能。デジタル信号にすれば,光路は多点間を瞬時に移動する。既存のビーム・スキャナで不可能だったランダム・スキャンが実現できるという。