図1 試作品に電流を流し,LEDを点灯させている。
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図2 左側の2枚が,今回の試作品。導電性高分子膜を樹脂基板上に成膜している。膜厚は,左上が50nm,左下が100nm。右下は市販されている導電性高分子を利用したもので,膜厚は100nmである。
図2 左側の2枚が,今回の試作品。導電性高分子膜を樹脂基板上に成膜している。膜厚は,左上が50nm,左下が100nm。右下は市販されている導電性高分子を利用したもので,膜厚は100nmである。
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図3 作製法に関する説明スライド
図3 作製法に関する説明スライド
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 三洋電機と東京工業大学 教授の山本隆一氏の研究グループは,導電率が1200S/cm以上と高い高分子膜を開発した(発表資料)。「再現性も高い」(同社)という。同種の市販品と比較した場合,「約2倍の導電率」(同社)だという。

 試作品の用途例として,タッチ・パネルや液晶テレビなどで用いる透明電極を挙げる。タッチ・パネルの透明電極として利用する場合,シート抵抗を300~500Ω/□,液晶テレビで用いるには10~数十Ω/□程度にする必要があるという。今回の高分子膜は導電率が高いため,タッチ・パネルに使える水準のシート抵抗が得られるとする。

 具体的には,今回の導電膜が厚さ120nmの場合で,「シート抵抗は68Ω/□と低い」(三洋電機)。膜厚によるが,シート抵抗は平均すると,「100Ω/□ほど」(同社)とする。

 透明電極として用いる場合は,透過率も重要な指標となる。膜厚100nmの試作品で,波長550nmの光の透過率は約75%と,「既存のITO膜に比べて低い。改善が今後の課題の一つ」(三洋電機)とする。このほか実用化する上で課題となるのが,酸素や紫外線などによる劣化である。この劣化を抑え,十分な信頼性を確保することが求められる。「信頼性の評価はこれから」(同社)とする。

材料と製法の改善で実現

 試作品の高分子材料には,安定な分子構造を持つ「ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)」を利用した。高い導電率を実現する上でカギを握るのが,PEDOTを作製する際に,原料の反応速度を制御する目的で使う添加剤である(図3)。今回,新たな添加剤を利用し,かつ適切な分量を加えることで高い導電率を実現したという。導電率が高くなるのは,膜の配向性が向上するためとみる。

 PEDOTの製法には,「化学酸化重合法」を採用した。成膜法には,スピンコート法や印刷技術,あるいは基板を液に漬けた後に引き上げて膜を作るディップ法など,コスト低減に向く製法を利用できるという。膜が薄いために材料の使用料を抑えられ,かつ製造装置のコストを抑制できるといった理由から,実用化すれば「既存のITO電極よりも安価に製造できるだろう」(三洋電機)とみる。

 今後は,具体的な用途を模索しつつ,さらなる導電率の向上を図る。今回の試作品の2倍まで導電率を高めたいとする。