経済産業省は2009年3月5日~6日,「人財シンポジウム~社会人基礎力・ジョブカフェ・キャリア教育」を都内で開催した。「学校教育の『正解主義』が学生たちの就労意識を低下させた」---。リクルート出身で,都内の義務教育分野で初めての民間人中学校長となった元杉並区立和田中学校校長の藤原和博氏は,6日のパネルディスカッションに参加し,こう問題提起した。

 藤原氏の言う正解主義とは,学校で「問題の答えは一つしかない」という視点で教育をすること。「液体と気体の違いはこう覚えなさい」と,答えを限定して教え込むことで,子供たちは「すべての物事には決まった回答がある」と思い込んでしまうのだという。

 ところが,社会人として仕事をするようになると,正解主義では通用しない。「仕事とは,(一緒に仕事をするチームが)ギリギリのベクトル合わせを常に続けること。正解主義ではなく修正主義なのだ」(藤原氏)。若者の離職率が近年,増加傾向にあるのも,こうしたギャップに遭遇した若者が「自分にとっての正解がこの会社にはない」と判断を下すからだと藤原氏は推測する。

 パネルディスカッションには,清川メッキ工業(本社福井県福井市)で常務取締役を務める清川卓二氏も参加した。清川氏は,子供たちにめっきの技術と面白さを伝える「めっき教室」を実施している。講師は同社の社員たちだ。当初は,あまり華々しいイメージのないめっきの職場で,社員の気持ちをなんとか盛り上げていきたいと始めたことだった。実際に始めてみると「○○ちゃんのお父さんはすごい仕事をしている。格好いい」と,子供たちの間で評判に。これがPTAなどに伝わり,今では学校から依頼を受けて実施するようになった。この活動は,社員のモチベーション向上にもつながっている。

 清川メッキ工業では,同社の取り組みを地域の他の企業に広める活動をしており,現在,参画企業は約40社に上っている。「清川メッキ工業のように,中小企業がどんどん地元の学校に入っていくのは,(若者の就労意識を高める上で)とても良い試みだ。子供たちにものづくりの楽しさが伝わる上,中小企業も活性化する」(藤原氏)。

 パネリストには藤原氏と清川氏のほか,経済産業大臣政務官の谷合正明氏,元ジョブカフェいわてセンター長の海野俊也氏,ジョブカフェ愛workセンター長の大内由美氏も参加した。