インタビューに応じた韓国Seoul Semiconductor Co.,Ltd.,R&D Center,CTO & Vice PresidentのSang Min Lee氏
インタビューに応じた韓国Seoul Semiconductor Co.,Ltd.,R&D Center,CTO & Vice PresidentのSang Min Lee氏
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Seoul Semiconductor社がブースに出展した白色LEDの一部。白く点灯しているのが,2009年4月から出荷を始める高出力品の「Z1 series」。低価格がウリであるという。350mA投入時の光束は105lmで,150円を切る単価に設定するという。約1.5円/lmとなり,高出力品としては破格ともいえる。本格普及の目安とされる1円/lmにかなり近づいた。
Seoul Semiconductor社がブースに出展した白色LEDの一部。白く点灯しているのが,2009年4月から出荷を始める高出力品の「Z1 series」。低価格がウリであるという。350mA投入時の光束は105lmで,150円を切る単価に設定するという。約1.5円/lmとなり,高出力品としては破格ともいえる。本格普及の目安とされる1円/lmにかなり近づいた。
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同じく,ブースに出展した交流駆動LEDのAcriche。これまでAcricheは白色ベースだったが,今後は緑色発光品や青色発光品をラインアップする予定という。
同じく,ブースに出展した交流駆動LEDのAcriche。これまでAcricheは白色ベースだったが,今後は緑色発光品や青色発光品をラインアップする予定という。
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 白色LEDなどの発光素子について係争していた日亜化学工業と2009年2月に和解し,クロスライセンス契約を締結した韓国Seoul Semiconductor Co.,Ltd.。東京ビッグサイトで開催中の「ライティング・フェア 2009」での同社ブースには,交流駆動で発光できる高出力白色LEDなど各種製品をズラリと並べた。今回,来日した同社 R&D Center,CTO & Vice PresidentのSang Min Lee氏に,日亜化学工業と和解した経緯や白色LEDの開発動向などを聞いた。(聞き手=大久保 聡,日経エレクトロニクス)

――激しく係争を繰り広げていた両社の状況が一転した。和解した上にクロスライセンス契約にまで進んだ(Tech-On!関連記事)。どのような経緯があったのか。

Lee氏 日亜化学工業とは数年前から係争してきた。当初は意匠権で,それから白色LED関連の特許で争った。これらの係争の中で日亜化学工業と当社の間で話し合ううちに,両社がそれぞれ保有する特許がお互いに必要だという認識で一致し,互いの特許を使い合うことができるクロスライセンス契約に至った。つまり,両社は対等な立場で和解し,クロスライセンス契約を締結した。

 日亜化学工業は青色LEDや白色LEDの老舗メーカーであり,巨人である。回避することが極めて困難な,基本ともいえる強力な特許を数多く保有しているのは確かだ。ただ,我々も基本特許と呼べる特許を複数保有していることを強調しておきたい。例えば,我々の米国特許5075742(以下,742特許)である。先日,米国テキサス州の法廷において,活性層にInGaNを使用するLEDは構造特性上,742特許を使わざるを得ないという判断がなされたばかりだ(発表資料)。この特許にある技術は,日本やドイツ,英国,フランスでも特許登録されている。

――日亜化学工業との係争終結後のSeoul Semiconductor社の特許戦略を聞きたい。

Lee氏 今後は,我々の知的財産権に抵触する企業に対して,積極的に特許権行使を行う。特許権行使はこれまで行いたくても十分にできなかった。日亜化学工業との係争で手いっぱいだったためである。我々が訴えられることはあっても,我々から訴えることはほとんどできなかった。

 だが,これからは違う。日亜化学工業との係争に向けていたリソースを,特許戦略に振り向けられるからだ。

――交流電力で点灯する白色LED「Acriche」は,Seoul Semiconductor社の看板商品である。このような交流駆動する白色LEDを,他社が手掛け始めているという話を聞いたことがある。

Lee氏 確かに,開発を進めている動きはつかんでいる。ただし,まだ製品化には至っていないようだ。

――Acricheは,直流駆動する通常の白色LEDに比べて,明るさが劣るとの指摘がある。開発状況を知りたい。

Lee氏 着実に進化している。現在の実力は,クール・ホワイトと呼ぶ一般的な発光色の白色LEDで発光効率が80lm/W,電球色で同65lm/W程度である。ただし,今年中にはクール・ホワイトで100lm/W,電球色で88lm/Wにまで引き上げられる予定だ。こうなれば,もう十分な明るさを備えているといえよう。なお,社内ではクール・ホワイトで120lm/Wの達成を目標に掲げている。

――Acricheに使う青色LEDチップの自社生産は続けているのか。社外に生産委託するといった予定はあるのか。

Lee氏 自社生産を続けており,生産委託はしていない。我々のコア技術なので,Acricheに使うチップは自社生産にこだわりたい。

――LED業界では最近,大きなニュースがあった。韓国Samsung Electronics Co., Ltd.と韓国Samsung Electro-Mechanics Co., Ltd.は折半でLEDの合弁会社「Samsung LED(仮称)」を設立する。この新会社がLED業界に与える影響をどう考えるか。

Lee氏 影響はあるだろうが,業界にとってネガティブな印象はない。切磋琢磨していける相手が増え,LEDの技術開発と用途拡大は進むだろう。

 LEDの用途では今,ノート・パソコンや液晶テレビなどのバックライト光源と照明光源の市場が立ち上がり始めている。LED業界では「両方の市場が立ち上がった状況では,LEDは足りるのか」という懸念があるくらいだ。LEDの使い手である機器メーカーにとっては,所望の仕様のLEDを十分に確保できるのかどうかが心配事と聞いている。LED照明機器の新製品を展開するので,何千万個といった単位で白色LEDの安定供給を求められたこともある。我々も,あるバックライト・メーカーと商談中に「LED照明の立ち上がり状況はどうなっているのか」と尋ねられるくらい,機器メーカーにとって数量確保は最重要項目といえよう。万一,数量が確保できねば,製品展開に支障が出てしまうためだ。

 Samsung Electronics社や韓国LG Electronics Co.,Ltd.などは,機器のLEDバックライト化を積極的に進めている。当事者でないので推測になるが,Samsung Electronics社の今回の判断はLEDを安定的に調達したいという強い意志の現れであろう。

 我々の状況でいえば,現段階で受けているバックライト向けLEDや照明向けLEDの生産で工場は精いっぱいで,生産が追い付かないくらいだ。

訂正
掲載当初,Lee氏のコメントの中で「ある照明機器メーカーと商談中に『LEDバックライトの立ち上がり状況はどうなっているのか』と尋ねられるくらい」という個所がありましたが,正しくは「あるバックライト・メーカーと商談中に『LED照明の立ち上がり状況はどうなっているのか』と尋ねられるくらい」の誤りでした。また,生産状況について,掲載当初は「照明向けLEDの生産だけ」としましたが,正しくは「バックライト向けLEDや照明向けLEDの生産」の誤りでした。現在の本文は修正してあります。