パネル討論の様子。右から,中村修二氏,城戸淳二氏,落合勉氏
パネル討論の様子。右から,中村修二氏,城戸淳二氏,落合勉氏
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 LEDと有機ELが切り開く照明の未来――。

 こう銘打ったセミナーが2009年3月4日,東京ビッグサイトで開催中の「ライティング・フェア 2009」で開催された。青色LEDの開発者で現在もGaN系発光素子研究の第一線で活躍する中村修二氏(米University of California,Santa Barbara校 Professor)と,有機EL研究の第一人者である城戸淳二氏(山形大学 大学院理工学研究科 教授)がパネル討論に登壇するとあって,東京ビッグサイトの国際会議場には多くの聴講者が押し寄せ,会場はほぼ満杯。コーディネーターを務めた照明デザイナーの落合勉氏(M&Oデザイン事務所 代表)の進行の下,LED照明と有機EL照明の可能性と普及の課題などが話し合われた。

新照明でも「ガラパゴス化」を懸念


 2年に1回の頻度で開催されるライティング・フェアの今回の最大の特徴は,LED照明が所狭しと並んでいることである。パネル討論ではまずライティング・フェア会場について,パネラーである中村氏と城戸氏がそれぞれの印象を語った。

 中村氏は「展示品の90%以上がLED照明といえる。これまでの照明関連の展示会と比べて様変わりしており,非常にびっくりした」と述べた。同氏は2~3年前に米国で開催された照明関連の展示会に参加したが,そのときは展示品の20~30%程度がLED関連で,主役は蛍光灯などの既存光源だったという。同氏は,白色LEDの研究開発状況を考慮するとあと2~3年で発光効率は現状よりも少なくとも50%は高くなるとみる。そうなれば「LED照明に興味を抱くケースはさらに増える。LEDに関わる身として非常にハッピー」とLED照明の未来は明るいことを連想させるコメントを述べ,明るい表情を見せた。同氏はパネル討論に先駆けて設けられた自身の講演の中で,「今後2~3年内に発光効率は200~250lm/Wに達してもおかしくない」としていた。

 城戸氏は「4年前の会場は蛍光灯が多く,2年前はLED照明をよく見かけるようになり,今年はまさにLEDショー」と印象を語った。LED照明の技術開発の進展が速いことから,「有機EL照明がLED照明に追い付いていけるかな」との感想も述べていた。同氏はパネル討論前の自身の講演の中で,有機EL照明は発光効率や寿命といった点で着実に進化しており,白色LEDに対して2~3年遅れで研究開発が進んでいるとの見方を示していた。

 LED照明の技術面での進化の速さについて語る一方で城戸氏は,ビジネス・モデルの面で懸念を示した。それは,LED照明の日本市場が「ガラパゴス化するのではないか」というのである。白色LEDは確かに日本発の技術だが,照明器具メーカーが「海外市場に打って出るという状況になっていない」(同氏)と指摘する。国内市場にこだわることで世界市場とは異なる進化が起こり,結果として世界市場で戦っていけない,あるいは世界市場に打って出るには製品の仕様をガラリと変えざるを得ないという状況に陥ることへの警鐘である。日本の携帯電話機でよく指摘される「ガラパゴス化」がLED照明でも起こる可能性を問題視する。

 中村氏によれば,米国でのLED照明開発はベンチャー企業が強みを発揮しているという。研究開発の進展は速く,経営トップの意思決定も素早いとする。この傾向は台湾や中国でも同じという。日本でのLED照明の開発は「大手メーカーが担っており,意思決定のスピードが遅い」(同氏)ために,技術レベルで日本メーカーに早晩追い付くとみる。加えて,同氏は日本は各種規制が多いことが,LED照明の開発のスピードアップの妨げになっているとの見方も示した。「規制がなくならないと,自由競争にならない」(同氏)。

世界から孤立しないために


 日本におけるLED照明ビジネスの問題点はガラパゴス化だけではないと,コーディネーターの落合氏は指摘する。同氏はLED照明のみならず,有機ELの照明への利用にいち早く取り組んだ経験を持つ。海外のLED照明の状況を目にする機会も多い。そういった経験を通し,LEDや有機ELという部品や器具といったハードウエアのレベルでは日本は世界最先端といえるが,多くの人たちに照明を楽しんでもらえるようなアプリケーション・レベルの開発は欧米に比べて積極性が足りないとの印象を持っているという。

 この発言を受けて中村氏は,「白色LEDは伝統的な日本メーカーが開発し,伝統的な日本の照明メーカーが製品化しているためではないか」とコメントした。LEDを使えば照明はカラフルなるなどデザイン性が高まり,コンピュータを使ってソフトウエアで色や明るさを容易に制御できる。このように照明は大きく様変わりするので,LED照明は既存照明の文化とは別物であると中村氏は指摘する。だからこそ,ハードウエアだけでなくLED照明に向けたソフトウエア(注:ここでは使い方のノウハウという意味)を取りそろえないと,LED照明で「日本は世界から孤立する」(同氏)とした。

 一方,城戸氏は世界から孤立しないためには,ハードウエア面やソフトウエア面での標準化が重要と指摘する。既に実用化が始まっているLED照明では,標準化はひと筋縄では進まないという声も多く聞かれる。それに対して有機EL照明は,実用化はまさにこれからという状況なので,「有機EL照明の標準化は,日本発となるようにきちんとしていきたい」(同氏)との意思を示した。