米国の大手テレビ企画・販売元であるVIZIO, Inc.は,船井電機との特許係争の解決を狙って2009年2月20日,FCCに嘆願書を提出するという珍しい行動を採った(ニュース・リリース米国特許訴状ストアが公開した嘆願書)。この理由をVIZIO社に電話会議で聞くことができたので報告する。

 ここに至るまでの経緯をまず紹介したい。
 VIZIO社は2007年に,船井電機を含むCRTテレビの時代から米国市場を押さえていた企業からシェアを奪う格好で爆発的に成長。これに対し船井電機は,米国特許5,329,369号6,115,074号を武器にVIZIO社に対して特許係争を始めた。

 これまでのところでは前者(369特許)に対し,国際貿易委員会(ITC)はVIZIO社による特許侵害を認めず,特許商標庁(USPTO)は369特許に有効性が認められないとした。一方,後者(074特許)に関しては,ITCにおいてVIZIO社による特許侵害の事実が確定した

 この結果VIZIO社は,船井電機と074特許に関するライセンス契約を結ばなければ,米国にテレビを輸入できない立場に立たされた。しかしVIZIO社は,このライセンス条件が「極めて高額かつアンフェアだった」(同社)ことから契約締結を拒絶。このままでは2009年4月ころにITCによって輸入が差し止められる可能性が高い。

 そこでVIZIO社がすがったのがFCCである。074号特許は,FCCが決めたデジタル・テレビ標準規格「ATSC」に含まれている。そしてATSCに関わる特許権者は,妥当かつ非差別的に(reasonable and non-discriminatory,通称RAND条件)ライセンスを供与しなければならないというルールがある。VIZIO社は,このルールに基づいてFCCに動いてもらおうと考えている。具体的には,FCCが船井電機に対して「RAND条件に反する要求をするな」という命令を発することを期待している。

 以下では電話会議における要点を,嘆願書の内容で一部補足して記す。

―― 船井電機の074特許のライセンス条件は,どのようなものだったのか?
 テレビ1台当たり5米ドルだ。ATSCを構成する何百もの特許の一つでしかないのに,これはあまりにも高い。特許1件当たりの価格としては通常の20~30倍に相当する。例えば,ある日本の特許権者グループのライセンス料は,多数の特許を包含するが,約1米ドルにとどまっている。
 こんな高額な要求をしているのは,船井電機だけだ。これを仮に受諾すれば,米国の消費者に過大な出費という不利益を与えてしまう。船井電機はアンフェアだ。

―― 船井電機側の狙いは何だと推定しているのか?
 おそらく競争相手である我々を市場から排除したいのだろう。

―― 仮に船井電機の要求をそのまま受け入れれば,自社製品に収益性にどのくらい悪影響を与えるのか?
 具体的には示せないが,問題の大きさを理解してもらうため,一つ例を挙げよう。19型液晶テレビでは,部材費の15%を知的財産権関連の費用が占めている。この負担は大変に大きい。今でさえそうなのに,船井電機が求める高額なライセンス料までもがまかり通れば,どうなるか。米国の消費者にとっても,テレビのデジタル化を急ぐ米国政府にとっても,メリットをもたらさないことは明らかだ。我々はフェアなライセンス料を求めて,これからも争っていく。