「4月1日の施行は,まず不可能でしょう」と,ある関係者は「Blu-ray課金」の行方を予想する。

 文化庁は2009年2月2日に,Blu-ray Disc録画機とその媒体を私的録画補償金制度の対象に加える「Bluray課金」のための著作権法施行令の改正案を公表した。同年3月4日までのパブリック・コメント募集と省庁間の調整を経て,文化庁は4月1日の施行をもくろむが,先行きには暗雲が漂う。地デジ録画機器に向けた録画ルール「ダビング10」の実施を巡って表面化した権利者と機器メーカーの対立が,再びあらわになったからだ(図1)。

図1 「Blu-ray課金」に関する主な対立点 Blu-ray Disc録画機器を私的録画補償金の対象機器にするという大臣合意は,「ダビング10」の実施が暗礁に乗り上げていた2008年6月17日に文部科学大臣と経済産業大臣の合意という形で突如,行われた。その施行のため,文化庁と経済産業省は水面下で調整を続けてきたが,内包されていた対立点を解決できず,文化庁が強行する形で2009年2月2日に政令改正案が提示された。現在,パブリック・コメントを募集している。
図1 「Blu-ray課金」に関する主な対立点 Blu-ray Disc録画機器を私的録画補償金の対象機器にするという大臣合意は,「ダビング10」の実施が暗礁に乗り上げていた2008年6月17日に文部科学大臣と経済産業大臣の合意という形で突如,行われた。その施行のため,文化庁と経済産業省は水面下で調整を続けてきたが,内包されていた対立点を解決できず,文化庁が強行する形で2009年2月2日に政令改正案が提示された。現在,パブリック・コメントを募集している。 (画像のクリックで拡大)

見切り発車された改正案

 Blu-ray課金はもともと当時の経済産業大臣と文部科学大臣の「大臣合意」で,2008年6月17日に突如として浮上した政策である。当時暗礁に乗り上げていたダビング10の実施に向けた措置と説明された。背景には,地デジ録画機器への補償金制度の適用を主張した権利者側と,これに真っ向から反対した機器メーカーの対立があった。

 ダビング10が2008年7月4日に実施されたことで,この対立はいったん表舞台から消えた。しかし「Blu-ray課金の実施」を巡り,交渉は水面下で続いていた。文化庁は,「7カ月間,経済産業省と必死に調整を続けてきたが,折り合えない部分が残った。年度内に実施を決めるには,このタイミングがギリギリ」(同庁 長官官房著作権課 著作物流通室長の川瀬真氏)と,政令改正案の見切り発車を認める。

 機器メーカーの業界団体である電子情報技術産業協会(JEITA)は2009年2月13日,文化庁に提出した意見書をWebサイト上に公表し,「(地デジなど)無料デジタル放送の録画は,現行DVD機器も含めて補償金の対象から外すべき」などと主張した。既に登場しているデジタル放送専用の録画機器を対象から外し,ひいては将来的な補償金制度の廃止につなげる狙いがある。だが文化庁は,こうした機器メーカーの主張自体が法的に無理があるとする。「主張を受け入れるには著作権法自体の改定が必要。下位に当たる政令改正で,現行法の規定は無効化できない」(川瀬氏)。

 権利者側は,補償金制度を巡る議論の場を法廷に移す構えだ。2009年2月5日に権利者団体が開いた会見の席で,実演家著作隣接権センターの椎名和夫氏は「補償金制度への協力義務を果たさないメーカーには法的措置も辞さない」と述べた。Blu-ray課金問題の行方は,補償金制度自体が存続するか否かを,今後決める可能性が高い。

(本記事は『日経エレクトロニクス』,2009年2月23日号,p.11から転載しました。内容は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)