にぎわう富士通のブース。
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ダイヤモンドからグラフェンまで,さまざまな炭素材料の模型が一同に
ダイヤモンドからグラフェンまで,さまざまな炭素材料の模型が一同に
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グラフェン・トランジスタを載せた数mm角のチップの拡大写真。グラフェン・トランジスタは,2本の電極の先のさらに拡大写真にある。
グラフェン・トランジスタを載せた数mm角のチップの拡大写真。グラフェン・トランジスタは,2本の電極の先のさらに拡大写真にある。
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CNTバンプを利用してLSIをフレキシブル基板に実装した例
CNTバンプを利用してLSIをフレキシブル基板に実装した例
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 富士通は,「国際ナノテクノロジー総合展(nano tech 2009)」で,炭素を用いたエレクトロニクス技術にテーマを絞ったブースを出展した。つまり,カーボン・ナノチューブ(CNT)やグラフェン,グラファイトを用いた素子技術を集めたブースである。小さなプレゼン・コーナーもあり,多数の人が足を止めて説明を聞いていた。

「+αのアイデアが必要」のグラフェン・トランジスタ

 ブースの中での展示の一つが,「グラフェン・トランジスタ」である。グラフェンは,グラファイト(黒鉛)1層分の2次元シート状の物質。富士通は,産業技術総合研究所の塚越一仁氏が作製した,グラフェンをチャネル層として用いたトランジスタを同社のブースで展示した。

 グラフェンをチャネル層に用いるメリットは,キャリア移動度が2000cm2/VsとCNT並みに大きく,それでいて2次元シート状なので,チャネル層としての配置が楽,つまり製造しやすい点。これに対し,CNTをチャネル層に用いる「CNTトランジスタ」は,電極をつなぐように向きを揃える技術が大きな課題になっている。

 今回作製したグラフェン・トランジスタは,オン/オフ比が5~10,とまだかなり低い。理由の一つは,「グラフェンが,一般的にはバンドギャップがない金属としての性質しか持たないため」(富士通)。小さいながらもオン/オフ比が取れる理由は,ゲート電圧の印加によって,グラフェン中のキャリア密度が変化するからだという。「実用化するには,オン/オフ比を大幅に上げる必要があるが,そのためにはなにか別の仕組みを考えないといけない」(同社)。例えば,グラフェンの幅を狭めリボン状にしてバンドギャップを作り出す,などのアイデアがあるという。

各種の応用が可能なCNTバンプ

 グラフェン・トランジスタの隣では,「CNTトランジスタ」やCNTを束にしてバンプや配線に用いた各種技術が展示されている。

 CNTトランジスタは,上述のとおり,CNTの向きを揃える技術が課題の一つである。富士通は,九州大学の吾郷浩樹氏の研究室と共同でこの課題に取り組み,サファイアの特定の結晶面上でCNTを成長させると,向きが揃うことを発見したという。

 富士通はこの技術を用いて,CNTトランジスタを試作した。ゲート幅は50nmと細い。ただし,現時点ではオン/オフ比は4と芳しくない値であるという。

 「CNTバンプ」はLSIの背面に,CNTを100μm程の長さで束状に成長させ,プリント配線基板を張り合わせて用いる。同バンプが歯ブラシのようにフレキシブルであるため,「熱やメカニカルなストレスを受けてもLSIが破損しにくくなる」(富士通)という。

 CNTバンプには別の使い方も考えられている。放熱やインダクタだ。放熱用としては携帯電話の基地局用LSI向けなどで2~3年のうちに実用化できる可能性があるという。CNTバンプのインダクタとしての性質はまだ研究が始まったばかりだが,「CNTのインダクタンスは,同じ直径の金の配線のそれに比べて100倍も大きいため,インダクタを大幅に小型化できる可能性がある。GHzを大きく超える周波数で,LSI上の配線の位相の整合などに使えるかもしれない」(富士通)。

 このほか,同ブースでは,LSI中の配線としてCNTの束を利用する研究についての展示もある。「半導体の微細化がこれ以上進むと,銅(Cu)では均一な配線をうまく作れなくなってくる。CNT配線はその代替となるのではないかとみて研究を進めている」(富士通)。課題は,いかに高密度にCNTを成長させられるか。「もう少しで,Cu配線より電気抵抗を小さくできる」(同社)とする。