水中での伝送速度100kビット/秒,水中での通信距離約10mのSeatooth。アンテナはループ・アンテナ。
水中での伝送速度100kビット/秒,水中での通信距離約10mのSeatooth。アンテナはループ・アンテナ。
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水中での伝送速度100ビット/秒,水中での通信距離約30mのSeatext
水中での伝送速度100ビット/秒,水中での通信距離約30mのSeatext
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図1 水中での電波の周波数と伝播距離の関係。淡水と海水で伝播距離が異なる。
図1 水中での電波の周波数と伝播距離の関係。淡水と海水で伝播距離が異なる。
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図2 周波数と伝播速度の関係。淡水,海水の他,音波も示した。このグラフを数10MHzまで外挿すると,淡水の伝播速度は真空中の光速度(緑色の線)を超えてしまうが,これは電気伝導度σが周波数ωと誘電率εの積ωεより十分大きいという仮定で近似計算をしているため。実際には,淡水中の電波は1MHz付近からこの仮定が成り立たなくなり,伝播速度は一定値に漸近する。
図2 周波数と伝播速度の関係。淡水,海水の他,音波も示した。このグラフを数10MHzまで外挿すると,淡水の伝播速度は真空中の光速度(緑色の線)を超えてしまうが,これは電気伝導度σが周波数ωと誘電率εの積ωεより十分大きいという仮定で近似計算をしているため。実際には,淡水中の電波は1MHz付近からこの仮定が成り立たなくなり,伝播速度は一定値に漸近する。
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WFS社 General ManagerのCrowther氏
WFS社 General ManagerのCrowther氏
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 英国スコットランドのWireless Fiber Systems Ltd.(WFS社)は,水や土を数m~数十m透過して無線通信を成り立たせる送受信装置を開発したと主張する。データの伝送手段は電磁波で「技術的には,Bluetoothなどのデジタル変調を用いた無線とほぼ同じ技術を使っている」(同社)という。

 水中や地中は,これまでほとんど電磁波が通過しないと思われていた媒質。ここをどのようにして,電磁波を伝播させられるのか。通信距離やデータ伝送速度はどれぐらいか,そして,どのような用途に利用できるのか,WFS社 Environmental&Industrial Division,General ManagerのIan Crowther氏に聞いた。

――水中通信は本当に可能なのか。利用する電波の周波数や製品のデータ伝送速度はどれぐらいか

 水中通信は一度,1970~80年代にも研究開発が進められた。ただし,当時はアナログ技術しかなく信号処理技術に限界があったため,実用化される前に開発がストップした。そうした経験などから,「水中は電波が通らない」という認識が一般に広まってしまった。しかしそれは正しくない。水は,比透磁率が約1,比誘電率が約80と非常に高い誘電体だ。MHzオーダー以下の比較的低い周波数であれば,短い距離ではあるが電波が伝播する。最近のデジタル通信技術を使い,しかも用途を適切に選べば,水中通信は十分成り立つ。なにか特別な技術を開発したというより,ビジネスの可能性に気がついた点が我々の優位点だ。

 利用している電波の周波数は,機器や用途によって異なる。例えば,当社の「Seatooth」(型番S5510)は,100k~200kHzの周波数を用いて,水中で最大10mを100kビット/秒で通信できる。周波数を上げれば技術的には最大1Mビット/秒が可能で,将来的には10Mビット/秒程度まで高速化できると考えている。Seatoothという名前は,この無線技術が通信距離が10m程度でデータ伝送速度が数百k~1Mビット/秒前後のBluetoothに似ていることにちなんだ。

 一方,「SeaText」(型番S1510)という製品は数kHz以下の低い周波数を使うため,より長い距離,例えば水中30mを100ビット/秒で透過し通信できる。もちろん,空中は長距離まで電波が飛ぶため,遠浅の海や浅い池などなら,水底に沈めたセンサと数百m離れた岸との間で通信が可能になる。

 具体的な用途は,Seatoothであれば無人の小型潜水艇の(例えばボートや氷上車からの)遠隔操作や潜水艇間通信,あるいは大型潜水艦へのドッキング時の通信など。Seatextであれば,英国南部のように,波による浸食が問題になっている場所での海岸線のモニタリングや,川に沈めたセンサを使った水質のモニタリングが可能だ。水ばかりでなく,地中も電波は伝播するため,地中に埋まった下水管での雨量センサなどもあり得る。

 ちなみに,通信に必要なセンサの電力は,水中通信でも1回5m~10mWで済む。これなら,100kビット/秒の通信を1日4回しても,1年程度は電池がもつだろう。ケーブルを敷く手間やコストを考えれば,センサの交換または電池交換などは楽なはずだ。

――これまで水中の情報伝達には,音波が使われていたはず。電波を使うメリットはあるか

 音波は,まず岸に近いところでは岸に反射し,雑音が多くなる。そうでなくてもさまざまな雑音が多く,データ伝送速度を稼げない。電波のような1Mビット/秒の実現は難しい。一方で,音波には遠方まで届くという長所がある。このため,電波は高速だが短距離に限られる水中通信,音波は低速ながら長距離に届く水中通信,という補完関係になる。前述のような水中と陸上をつなぐような通信には,音波は水面で大部分が反射してしまうため適さず,電波だけが利用できる。

――電波が水中をどれだけ伝播できるかを示すデータはあるか

 ある。例えば,周波数と伝播距離の関係は(図1)のようになる。ただし,淡水と海水では同一周波数での伝播距離が大きく異なる。理由は電気伝導度σの値が異なることによる。淡水のσの値は0.01S/m以下だが海水は4S/mと高いため,海水での通信は伝播距離が短くなる。

 周波数と伝播速度の関係も興味深い(図2)。σが0であれば,もちろん伝播速度は周波数によらず一定になる。σが無視できない場合,伝播速度は周波数の1/2乗にほぼ比例する。σの値が大きい海水では伝播速度はより遅くなる。音波の伝播速度は水中でも周波数によらずほぼ一定だが,速度が非常に遅い。伝播速度が大きい点も,電波を使うことの大きなメリットだ。

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