今回コラム・ランキングの1位になった藤堂編集委員の「『過剰品質論』の過剰」を読んで,先日お会いしたインド人技術者の言葉を思い出しました。日本から発信される情報のうち,どのようなものに興味を引かれるのかを聞いたときです。彼の答えは,「日本が強い製品,例えば自動車やテレビの技術動向」とのこと。試しにインドで強いテレビのブランドを聞いてみると,「ソニーとLG,どちらかといえばソニーが上」と言うのです。筆者は生半可な知識で韓国メーカーの方が知名度が高いのだろうと思い込んでいたので,これはちょっと意外でした。「ちなみにSamsungは?」との問いには「シェアを拡大するため安い製品を売っている」といった印象だそうです。

 わずか一人の意見ではありますが,新興国市場でも日本ブランドはまだまだ通用するといえそうです。ただし,先のコラムにもあるように価格がネックになっているのか,新興国で日本の電機メーカーが大成功という話はあまり聞きません。だったら,と根が単純な筆者は想像してしまいます。製品の品質はそのままに,値段を一気に下げれば鬼に金棒じゃないかと。

 以前,Apple社の「iPod」の後塵を拝するソニーが挽回するにはどうしたらいいのか,と他社の記者から質問されたことがあります。とっさに口をついて出た回答が「iPodと同じ機能の製品を,もっと安く出せばいいんじゃないですか」。あまりの単純さに,記事に採用してはもらえませんでした。一つ言い訳をさせてもらうと,そのころAppleがやっていたことは,これに似た方法だったと思うのです。今でも忘れられないのが,同社が4GバイトのiPod nanoを249米ドルで発売したときの衝撃です。ソニーどころか,世界中のどのメーカーも追従できない超低価格でした。それにも関わらず,iPod nanoは「安物」の烙印を押されなかったばかりか,確固たるブランドを確立してApple社の快進撃の礎を築きました。恐らく消費者が欲しい機能やデザインでは手を抜かず,「過剰な」機能や品種を削ぎ落としたことで,最も安くても,ちっとも安物でないという矛盾を成り立たせたのでしょう。

 日本メーカーにApple社のマネをしろといいたいわけではありません。そもそも,Apple社が日本メーカーを見習ったともいえるのではないでしょうか。冒頭のインド人技術者に聞いた日本製品のイメージは「なんといってもクオリティ(高品質)」。一昔前ならば,その前に「安くて」という枕詞が付いていたはずです。

2月9日~13日のニュース・ランキング