「ISSCC 2009」の「Session 18:Ranging and Gb/s Communication」では,富士通研究所が世界初となる77GHz帯のCMOSトランシーバを発表した(Tech-On!関連記事)。この他にも米University of California,Irvine校が,全世界の車載レーダに対応可能な22G~29GHzおよび77G~81GHz対応BiCMOSトランシーバICを発表した。高速通信用途では,米University of California,Berkeley校が,位相補正機能を有するアナログ・ベースバンドまで組み込んだ集積度および完成度が高い60GHz帯CMOSトランシーバを発表するなど,ミリ波帯のトランシーバが目白押しの状況になった。昨年度はCMOSによる60~77GHz帯のフロントエンドやPAが発表されただけで,この進展には目を見張るものがある。
米University of California,Irvine校の発表(論文番号18.2)は,0.18umBiCMOSプロセスを用いて全世界の車載レーダに対応可能な22G~29GHzおよび77G~81GHz対応したトランシーバを開発した。送受対抗で伝送を確認するなど完成度が高い。消費電力は24GHz動作時に0.51W,79GHz動作時に0.615Wと比較的低い。
富士通は,90nm世代のCMOSプロセスを用いた77GHz帯のトランシーバを発表した(論文番号18.3)。CMOS技術を用いた77GHz帯トランシーバは世界初で,伝送線路などの正確なモデリング技術により実現できたという。さらには,この周波数帯で大きな面積を必要とするパワーデバイダーにオンチップトランスを利用した回路を導入することで,小型化に成功。これまでの化合物半導体チップに比較してチップ寸法を1/4の2.4×1.2mmにできたという。消費電力は920mW。
米University of California,Berkeley校の発表(論文番号18.5)は,90nm世代のCMOS技術を用いた60GHz帯トランシーバで,送信部では基本回路ブロックのDACとミキサを縦積みに結合し,消費電力を低減した。受信部では大きな電力を消費する従来のADC/DSP構成を採用せず,新たにミックストシグナル領域で動作するDecision Feedback Equalization (DFE:判定帰還型等化)を導入して消費電力を削減した。消費電力は送信部170mW,受信部138mWと非常に低く,ここまで電力が低くなると携帯端末への実装も視野にいれることが可能となるだろう。しかも,送受対抗で1mの無線伝送時にQPSK変調方式で4Gbpsの伝送速度を確認するなど非常に完成度が高い。
一方,National台湾大も60GHzのトランシーバを発表した(論文番号18.6)。やはり90nm世代のCMOS技術を用いている。変調方式は上述したUniversity of California,Berkeley校に比較すると単純なOOK方式で,シンセサイザやデジタルベースバンド部を内蔵していないが,Gb/s以上の無線伝送まで行なっている。BER=10-12では1Gb/sで60cmの伝送を実現したという。消費電力は送信部183mW,受信部103mWと低い。