講演するガートナー ジャパン ガートナーリサーチ 主席アナリストの蒔田氏
講演するガートナー ジャパン ガートナーリサーチ 主席アナリストの蒔田氏
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 「『ミニ・ノートPC』を手掛ける国内メーカーは市場規模よりも独自の価値を確立すべき」---。ガートナー ジャパン ガートナーリサーチ 主席アナリストの蒔田佳苗氏は,2009年2月5日に開催されたJEITA(電子情報技術産業協会)主催のセミナー「電子機器及び電子デバイス関連の動向」において,「台頭する超小型モバイルPC・市場開拓のシナリオ」と題する講演を行った。

 低価格で小型のノート・パソコンである,いわゆる「ミニ・ノートPC」市場は,出荷台数が伸び悩むパソコン市場の中で,他のパソコン市場よりも大幅に大きな成長を遂げている。ガートナー ジャパンによれば,2008年のミニ・ノートPCの出荷台数は1170万台。2009年は前年比80%増の2000万台に達する見込みで,2012年の出荷台数は7000万台を上回る可能性もあるという。

 講演の中で蒔田氏は,「ミニ・ノートPC市場は発展途上国における教育機会の提供という当初の目的を離れ,パソコン・メーカーが想定していなかった用途で急拡大している」と話した。ユーザーは,ミニ・ノートPCを玩具やガジェットのように捉える消費者や2台目のノート・パソコンと捉えるヘビー・ユーザー,安価でシンプルな製品を求める初心者,屋外で特定業務に使用するユーザー,新興市場で教育向けに使うユーザーなどに広がり,求める性能も価格も異なっているとする。

 現在,ミニ・ノートPC市場で高いシェアを占めている台湾Acer Inc.や台湾ASUSTeK Computer Inc.は,玩具やガジェットのように捉える消費者や新興市場のユーザーなどを主なターゲットとして,500米ドル以下程度のミニ・ノートPCを多く販売している。これらの市場は,既存のパソコン市場を侵食するのではなく,新しい需要を生み出している市場でもある。ただし,同市場は「価格要求が厳しく,ハードウエアからの収益はまず見込めない」(蒔田氏)。台湾メーカーのようにパソコン市場での地位やブランド認知度の向上を狙う動機のない日本メーカーが,この市場で台湾メーカーより魅力的で低価格の製品を作るのは難しいと説明する。一方,もう少し高価格の製品の市場では,ある程度利益は期待できるものの,既存のノート・パソコン市場を侵食するという課題がある。蒔田氏は,「いずれにしても製品の位置付けは難しい」が,「あえて日本メーカーに勧めるとすれば,より高価格帯の市場を狙って製品の位置づけを明確化し,独自の価値を確立することでその市場のリーダーになるべき」とした。

ミニ・ノートPCの設計には標準部品やディスクリート部品を利用

 製品の差別化に当たっては,ミニ・ノートPCの基本価値を考慮することが重要とし,機能を「てんこ盛り」にして価格が上昇,競争力のない製品になることは避けなければならないとする。蒔田氏がミニ・ノートPCの基本価値とするのは「軽さ,低価格,シンプルな機能」である。ただし,既に各メーカーがデザインなどに配慮した製品も販売していることから,低価格であることを理由にデザインや品質にこだわらないのは競争力の低下を招くとし,手ごろな価格内での差別化を追及することが必要と話した。蒔田氏はミニ・ノートPCを設計する場合には,標準部品を最大限利用することや,ディスクリート部品の採用を検討することを提案する。特に,ディスクリート部品の使用に関しては,ミニ・ノートPCのディスプレイが大型化しつつあり,マザー・ボードに余裕があるため,枯れた技術を使った低価格のディスクリート部品を使っても設計できるとする。

 ミニ・ノートPC市場において今後ボリューム・ゾーンとなる価格帯については,500米ドル未満程度になるだろうと予測した。500米ドル以下の市場が細分化されて,300米ドル台の価格を付けられるかが,出荷台数に大きく影響するとみる。ただし,ASUSTeK Computer社などが高価格帯のミニ・ノートPCの販売なども始めていることから,高価格帯のミニ・ノートPCも出荷台数自体は増加すると予測した。