可視光で機能する光触媒の説明をする東京大学教授の橋本和仁氏。
可視光で機能する光触媒の説明をする東京大学教授の橋本和仁氏。
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 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は,可視光で従来の10倍の活性を持つ光触媒を開発した。壁紙などへのコーティングによるVOC浄化機能や,空気清浄機への搭載,医療機関などでの抗菌・抗ウイルスなど,室内での利用が期待できる。従来の光触媒は主に紫外線で機能するため,外装用建材など屋外でしか十分な効果を発揮できず,屋内での使用は限定的だった。開発プロジェクトに参加しているパナソニック電工は「2012年の商品搭載を目指す」としている。

 光触媒は,光が当たることによって価電子帯から伝導帯へとバンドギャップを越えて電子が遷移することで酸化力を持つようになると考えられている。同触媒は,酸化タングステン(WO3)に銅イオンを担持させたもので,可視光の吸収量が大きく量子効率も高い。WO3に銅イオンを担持させることで,触媒表面において電子がCuイオンへと移動する現象(界面電界移動)が発生するため,電子が遷移しやすくなり,エネルギー量の小さな可視光でも強い酸化力が得られるという。酸化チタンに窒素をドーピングした従来の可視光型の光触媒の10倍の性能があるとしている。

 基本的な製法は,酸化タングステンを銅イオン溶液に浸してから乾燥させるという比較的単純なものであり,量産も容易だとしている。開発に参加している昭和タイタニウムが既にパイロット設備を設置しており,数kgのサンプル提供に応じられるという。今後量産化によって,酸化チタン並みの価格を目指す。

 ただし,酸化タングステン型は,耐アルカリ性が低く,洗剤などで洗うと効果が低下する。従って,頻繁に清掃する場所や水回りでの利用には向かず,当面の用途は限られそうだ。プロジェクトでは,最終的には酸化チタンに銅イオンを担持した光触媒の開発を目指しており,「プロジェクトの期限までに銅イオンを担持した酸化タングステンと同等の性能を目指す」(プロジェクト・リーダーの東京大学教授の橋本和仁氏)。まずは,酸化タングステンを可視光での光触媒利用の端緒とし,ゆくゆくは本命の酸化チタンを実用化させる考えだ。現在は,窒素ドーピングした酸化チタンに比べて2倍程度の活性しか得られていないものの,光の吸収量を高めることで活性を高めるという。

 同触媒の開発は,NEDOが東京大学先端科学技術研究センターに委託した「循環社会構築型光触媒産業創成プロジェクト」の一環。同プロジェクトには,産業技術総合研究所や神奈川科学技術アカデミー,中部大学らが加わっているほか,昭和タイタニウムと三井化学が素材開発を,パナソニック電工やTOTO,日本板硝子など民間企業7社がアプリケーション開発の共同研究に参加している。実施期間は2007年7月~2012年3月で,51億円を投じて可視光で機能する光触媒を開発し,日本が先行する光触媒の技術力をさらに高めて国際的な産業に育成するのが目的だ。光触媒の内装用途が拡大すれば,市場は2兆8000億円規模に成長するとみている。

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