常務取締役 経理本部長の大澤正宏氏
常務取締役 経理本部長の大澤正宏氏
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東京証券取引所で開かれた記者会見には多くの報道関係者がつめかけた
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 キヤノンの2008年通期(1月~12月)決算は,9期ぶりの減収減益になった(PDF形式の発表資料)。連結売上高は前年比8.6%減の4兆941億6100万円,営業利益は同34.4%減の4960億7400万円,純利益は同36.7%減の3091億4800万円である。常務取締役 経理本部長の大澤正宏氏は「2008年11月以降,先進国やロシアで需要が急激に冷え込んだ。市場が止まったとさえ思えるほどだった。加えて10月ごろから対米ドルでも対ユーロでも想定をはるかに超える円高が続いた」と秋以降の厳しい経営環境を振り返った。

 2008年の事務機事業の売上高は前年比9.4%減の2兆6600億1900万円,営業利益は同16.2%減の5446億4400万円だった。レーザ・プリンターや企業向けモノクロ複写機が景気減退の影響を受けたものの,インクジェット・プリンターは世界市場が縮小する中で前年から3%,販売台数を伸ばした。

デジカメ販売台数は首位堅持

 カメラ事業の売上高は前年比9.6%減の1兆419億4700万円,営業利益は同38.9%減の1196億3900万円だった。デジタル・カメラの販売台数は同4%増の2560万台,このうち一眼レフ機は同20%増の380万台だった。台数シェアでは一眼レフ機の日本市場の首位を奪還したといい,世界市場でもコンパクト機,一眼レフ機ともに首位を維持したとする。ただし,円高の影響や,平均販売単価がコンパクト機で前年から約20%下落したことなどで,収益は悪化した。

 露光装置や医療画像記録機器などを扱う「光学機器及びその他」事業は赤字に転落した。売上高が前年比0.2%減の3921億9500万円,営業損失は454億9000万円である。液晶パネル製造向け露光装置の販売台数は前年の2倍以上に増えたものの,半導体製造向けが大きく落ち込んだ。液晶パネル製造向けでは第7世代や第8世代の基板サイズに対応する「MPAsp-H700」が売り上げに大きく貢献したという。

2009年は営業益が1/3に

 キヤノンは,2009年通期の業績予想も発表した。売上高は前年比14.5%減の3兆5000億円,営業利益は同67.7%減の1600億円,純利益は同68.3%減の980億円を見込む。「少なくとも2009年内は世界経済が本格回復してくることはない。事業環境は2008年より厳しいものになる。第1四半期(1月~3月)は赤字になる可能性もある」(大澤氏)と予測する。

 デジタル・カメラの世界市場規模は前年比7%減の1億1400万台を想定し,同社の販売台数も同7%減の2390万台(一眼レフ機は同2%増の390万台)を見込む。平均販売単価はコンパクト機で15%,一眼レフ機で10%,低下すると予測した。円高の影響も大きいため,カメラ事業の売り上げは前年実績を約18%下回る見通し。

 半導体製造向け露光装置は「半導体メーカーの投資が激減しているため,販売台数が落ち込む見込み。ただし,液浸ArF露光装置を今年は確実に売り上げにつなげる。さらに,液浸ArF機をベースにしたダブル・パターニング機など次世代機の開発に注力する」(大澤氏)。

雇用問題は

 記者会見の質疑応答では雇用に関する質問が相次いだ。大澤氏は「それぞれのものづくりの現場において適切な形で丁寧な対応をしたい。昨年は宇都宮の件を発表したが(Tech-On!関連記事),半導体関連の生産が激減する中,あの段階で採るべき形を示したと考えている。社内の誰もが経験したことのないような不況の中で,今は可能なことはなんでもやるしかない。ヒト,モノ,カネすべてを対象に節減を進めていく」と説明した。キヤノン代表取締役会長の御手洗冨士夫氏が日本経済団体連合会の会長として言及したワークシェアリングに関して大澤氏は「検討はする」と述べるにとどまった(日本経済新聞の関連記事)。