図1◎木質バイオマスであるリグニンからPDC,ポリマを製造する
図1◎木質バイオマスであるリグニンからPDC,ポリマを製造する
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図2◎長さ150×幅80×厚さ8mmの鉄板2枚の端面同士を接着した
図2◎長さ150×幅80×厚さ8mmの鉄板2枚の端面同士を接着した
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図3◎そこに乗っても破断しないほど,接着強度は高い
図3◎そこに乗っても破断しないほど,接着強度は高い
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 森林総合研究所は東京農工大学,長岡技術科学大学と共同で,木材に含まれるリグニンから造る化合物「2-ピロン-4,6-ジカルボン酸(PDC)」を重縮合し,金属同士の接着に優れた効果を発揮する接着剤の開発に成功した(図1)。接着強度は,エポキシ接着剤の3倍と高い。リグニンは木質バイオマス中の約30%を占めるものの,現在は主に製紙工場で燃料として利用されているだけ。今回の技術が実用化すれば,林地残材(約860万m3)や製茶工場で発生するお茶ガラなどさまざまな木質バイオマスの有効活用が可能になる。

 木質バイオマスの構成は,細胞壁成分で約40%がセルロース,約20~30%がヘミセルロース,約20~35%がリグニンである。このうち,セルロースとヘミセルロースは紙・パルプの原料や甘味料,医薬品などに利用されているものの,リグニンについては製紙工場で自家発電用燃料として利用されているだけで,ほとんどが廃棄されていた。

 森林総合研究所など3者はこれまで,遺伝子工学技術を適用し,リグニンを安定した中間体であるPDCに変換する技術を開発してきた。今回は,そのPDCを重合してポリマ化し,金属同士の接着に有効な接着剤を製造した。実際,ステンレス鋼同士を接着したところ,90MPaの接着強度が得られた。これは,長さ150×幅80×厚さ8mmの鉄板2枚の端面同士を接着して橋渡しし,その上に人が乗っても破断しないレベル(図2,3)。一般のエポキシ接着剤と比べれば,おおよそ3倍の接着強度という。

 今後,3者ではこの技術の実用化に向けて産官学連携体制を強化するとともに,コスト競争力を付ける工夫を施す。併せて,フィルム材料など接着剤とは異なるポリマとしての利用方法を開発していく。