昭和電工は,樹脂複合材向けの多層カーボン・ナノチューブ(CNT)製品「VGCF-X」を開発し,2010年初頭に量産を開始すると発表した。同社の大分コンビナート内にプラントを新設する。量産と売り上げの規模は当初は400トン/年,数10億円だが,2015年には1000トン/年,160億~200億円に拡大する計画である。

 昭和電工は1982年に,信州大学 教授の遠藤守信氏とCNTの共同研究を始め,1996年に「VGCF」という製品名で20トン/年規模で量産を始めている。当時の用途はLiイオン2次電池への添加剤としてで,「電池の長寿命化などの効果がある」(同社 コーポレートフェロー 無機事業部門 ファインカーボン部長の西村嘉介氏)という。現在は同用途への量産を約100トン/年規模で同社の神奈川県川崎市にある拠点で進めている。

 今回のVGCF-Xは,樹脂に混ぜることで導電性プラスチックの製造を目指したものである。VGCFが直径150nmと大きなCNTだったのに対し,VGCF-Xは直径15nmと大幅に細い。

 導電性プラスチックはこれまでも,繊維を焼成して製造した直径数μmの炭素繊維などを混ぜることで作られていた。ところが,(1)重量比で10~20%と相当量を混ぜる必要がありコスト上の課題あった,(2)(1)の結果,強度が劣化する,(3)炭素粉末が露出・分離する「粉落ち」などが発生する,といった課題を抱えていた。一方,VGCF-Xを用いると,従来の炭素材料の1/5~1/10で同程度の導電性を得ることができ,(2)や(3)の問題も起こりにくくなるという。

 導電性プラスチックの用途は,当初は,同社が量産しているハードディスクの運搬用樹脂器具など。将来的には,自動車の軽量化材料などにも用途が見込めるという。導電性樹脂を用いると電着塗装が容易になるためである。

 今回,昭和電工はCNTの量産で先行する米Hyperion Catalysis International,Inc.とクロスライセンス契約を締結したことも発表した。互いに保持する各種特許を相互利用できるようにすることで「Hyperion社の特許を気にする顧客にも我々の製品を自由に使ってもらえるようになった」(同社)という(関連記事)。

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