前回示したように,最近になってタッチ・センサを活用した民生品が次々に登場している。今回は,タッチ・センサのこれからの利用動向や市場規模を展望する。機器メーカーにとってタッチ・センサの利用環境は今後ますます改善されていく。タッチ・センサの使いこなしの巧拙が,機器開発の成否を左右する時代がやって来る。連載の目次はこちら(本記事は,『日経エレクトロニクス』,2008年6月2日号,pp.46-50から転載しました。内容は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)

 「ほらほら見て見て。画面上の見たいところを触ると簡単に撮影した画像が拡大されるのよ。これ便利よ」——。

 普段はDVDレコーダーの録画予約も「難しい」といって敬遠する50代の主婦が,息子からプレゼントされたデジタル・カメラを持ち,マニュアルもみることなく嬉々ききとして使っている。

 彼女が手にしているのは,松下電器産業のデジタル・カメラ「LUMIX DMC-FX500」。同社として,初めて液晶画面にタッチ・パネルを採用した。撮影した画像を見るとき,サムネイル表示された画像から,見たい写真を指で選べばいい。

 これまでのように機械式のボタンで操作する場合は,購入後に取りあえずマニュアルを読んで操作を学ぶ必要があった。それが,彼女のような“メカ嫌い”を生み出す一因になっていた。タッチ・パネルを使ったユーザー・インタフェースを導入することで,機器の操作に不慣れなユーザーの心理的なバリアが取り除かれた一例である。

ヒット商品が示した可能性

 タッチ・パネルやタッチ・スイッチ,タッチ・パッドといった,いわゆる「タッチ・センサ」に今,大きな注目が集まっている。ここで言うタッチ・パネルとは,透明な画面上を指で触れて入力するデバイス,タッチ・スイッチとタッチ・パッドは非透明な個所に触れて入力するデバイス。タッチ・スイッチはオン/オフを指で入力,タッチ・パッドは指でポインタなどを動かす。タッチ・センサは,それらの総称である。

 タッチ・センサは従来から交通機関の券売機や銀行のATM,複写機のディスプレイなど限定された用途で,主に使われてきた。ところが,ここ数年で携帯電話機やゲーム機などの携帯機器で徐々に採用が拡大しつつある。その理由は,タッチ・センサの採用によって直感的で誰にでも使いやすいユーザー・インタフェースを実現できるだけでなく,さまざまな付加価値を提供できることが認知されたからである。