原口義則氏
原口義則氏
タニタ ヘルスケア事業部 技術課 課長

 健康に対する消費者の関心が高まっていることを受けて,健康管理に向けた様々な機器が店頭に並んでいる。その中で代表ともいえる機器の一つが「歩数計」である。歩数計の市場は,ここ数年急拡大しているという。実は,その歩数計の市場拡大に3軸加速度センサとマイコンが貢献している。2006年に業界に先駆けて3軸加速度センサを歩数計に搭載した大手メーカーのタニタに,その経緯などを聞いた。

 手軽な運動として人気のあるウォーキングを楽しむ人たちの間で,以前から根強い人気を誇る歩数計。だが,歩数計の国内出荷台数は,最近まで年間400万台程度で頭打ちになっていた。その原因の一つが,女性のユーザーが増えないことだったという。女性ユーザーが増えない理由の一つが,歩数計の使い方にあった。従来型の歩数計は歩行にともなって動く振り子を使ってスイッチをオンオフすることで歩数をカウントしていた。ところが,この方式の場合は歩数計を腰のあたりに取り付けることが前提になっていた。そうでないと歩行時に振り子がうまく動かないことから,正しく歩数を計れないからだ。

図1 3軸加速度センサとマイコンを搭載したタニタの歩数計
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 だが,日常ベルトを使用することが多い男性はともかく,ベルトを使うことが少ない女性は歩数計を取り付ける場所がなかなかない。しかも,腰に着けたときの見た目や,振り子が揺れる時に発する機械的な音に抵抗感を感じる女性も少なくなかったという。「その解決策として,振り子の代わりに3軸加速度センサを使うアイデアは以前からありましたが,歩数計に組み込むには高価だったことから,なかなか検討に踏み切れませんでした」(タニタ ヘルスケア事業部技術課課長の原口義則氏)。ところが,3軸加速度センサやマイコンの低価格化が進んだことで,1個数千円の歩数計に搭載することが現実的になってきた(図1)。

センサとマイコンの導入を契機に市場が拡大

図2 首からぶら下げても利用可能に
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 3軸加速度センサを搭載した歩数計では,歩行時にXYZ3つの軸方向に働く力をセンサで検知。搭載する8ビットのマイコンで,その3方向の動きを分析したうえで,それが歩行によるものかどうかを判定する。「人間は普通に歩くと上下に約3cm動きます。マイコンが分析した結果,この幅に相当する上下動があったと認識すれば,歩行と見なしてカウントするようにしました」(原口氏)。これによって,ネックストラップなどでぶら下げた状態(図2)や,ポケットやカバンに入れた状態で,本体がどの方向を向いても歩数をカウントできるようになった。このシステムには8ビットのマイコンが必要だったという。以前の歩数計の回路にも,歩数の積算と液晶ディスプレイの表示のために,ローエンドの4ビット・マイコンが使われている製品があった。だが加速度センサの出力データを一定の時間や精度で処理するには,4ビット・マイコンの性能では不十分だった。

 腰のあたりに着用しなければならないという条件から解放された歩数計は,多くの消費者に受けた。「このころから女性だけでなく,これまで歩数計を使ったことのなかった男性にもユーザー層が広がりはじめました。これを見た競合他社が相次いで追随したことから,年間400万台程度だった歩数計の国内市場は,最近では600万台程度にまで拡大しています」(原口氏)。