冬場の暖房器具の一つとして根強い需要がある電気毛布。最近では,単に寝床を暖めるだけのものから,「睡眠改善」のための器具へと発展しつつある。その発展を支えているのがマイコンだ。マイコンで電気毛布はどう変わってきているのか。マイコンを使った「快眠プログラム」を電気毛布に搭載した三洋電機コンシューマエレクトロニクスに話を聞いた。

里 友成氏
三洋電機コンシューマエレクトロニクス
家電事業部鳥取製造統括部
技術一部担当部長
里 友成氏

松尾 茂氏
三洋電機コンシューマエレクトロニクス
家電事業部鳥取製造統括部
技術一部技術三課課長
松尾 茂氏

 毛布の中に通した発熱体によって暖かくなる電気毛布の温度制御には,コンパレータを使ったシンプルな制御回路が使われていることが多い。あらかじめ設定した電圧と,発熱体に巻かれた検知線の電圧をコンパレータで比較し,その出力信号でサイリスタを切り替えることによってヒーターをオンオフする回路だ。つまり,温度上昇にともなって検知線の抵抗値が上がり,検知線の電圧が設定したしきい値を超えるとヒーターを流れる電流を制御回路が遮断する。

 家電製品の温度制御システムにマイコンを導入する動きは1980年代に広がった。電気毛布についても,このころにマイコンを使った温度制御システムを採り入れる動きはあった。三洋電機(当時)の場合,1987年に最初のマイコン搭載電気毛布を発売した。この製品では,電気毛布の温度が短時間で設定温度に達するように,電源投入直後の一定時間だけヒーターの出力を大きくするという制御をマイコンで実現した。だが当時は,まだマイコンの価格が高く,マイコン搭載電気毛布は高価にならざるを得なかった。このため,消費者になかなか受け入れられないまま,市場から消えてしまったという。

「深夜の暑さ」をマイコンで解消

 それから約10年経ったころ,同社の開発部門で再び電気毛布にマイコンを導入する話が持ち上がった。キッカケは,従来の電気毛布に付きものとされていた「深夜に暑く感じる」という消費者の不満を解消するためだった。人間の体温は睡眠状態に入ると低下する。ところが,従来の電気毛布は人間が睡眠状態になってからも一定の温度を保っていた。この結果,睡眠が深くなる深夜になると電気毛布の温度が相対的に高くなることから,暑く感じてしまう。「就寝前に温度を『強』にして寝床を暖めて,そのまま寝入ってしまうユーザーも少なくありません。その場合は,特に暑く感じてしまいます」(三洋電機コンシューマエレクトロニクス家電事業部 鳥取製造統括部技術一部技術三課課長の松尾茂氏)。このため,電気毛布を使っていると「のどが渇く」「肌が乾燥する」というユーザーの意見も開発部門には聞こえていたという。

図1
図1 「快眠プログラム」機能を搭載した三洋電機の電気毛布「ス・ヤ・ヤ」

 「体温の低下と同じペースで電気毛布の温度も下げることができれば,こうした問題を解決できます。こうした温度制御アルゴリズムを実現するために,再びマイコンを電気毛布に採用することにしたわけです」(同社家電事業部鳥取製造統括部技術一部担当部長の里友成氏)。このアイデアから生まれた最初の製品が,2005年に同社が発売した電気毛布「ス・ヤ・ヤ」である(図1)。マイコンを使った温度制御機能は「快眠プログラム」と名付けられた。