図1
図1 マイコン制御インバータ搭載の照明器具(丸善電機の製品)

図2
図2 照明器具のインバータに搭載されたマイコン

 マイコンを搭載することによって進化した機器は多い。実は照明器具もその一つだ。最近の製品では,蛍光灯の駆動回路として使われているインバータやリモコンにマイコンが組みこまれており,様々な利点を消費者に提供している。その最新動向などについて,照明器具専門メーカーの丸善電機に聞いた。

 いまやマイコンは照明器具に欠かせないデバイスになりつつあるという。丸善電機の場合,現在の製品ラインナップの約8割の商品に,何らかのかたちでマイコンが搭載されている(図1)。

 なかでもマイコンの採用によって大きく変わった例の一つが,蛍光灯の駆動回路に使われているインバータだという(図2)。マイコン制御インバータ回路が,本格的に製品に組みこまれるようになったのは2000年代初頭のことだ。インバータ自体は,90年代半ばから,蛍光灯の駆動回路に使われていた。それまで主流だったグローランプ(点灯管)を使った駆動回路に比べて,明るく点灯させることができることなどからグローランプ方式を置き換えるかたちで普及している。ただし,当初のインバータの制御回路は,マイコンは使わずにコンデンサなどで構成した簡単な回路で実現したものだった。

 このインバータにマイコンを組み込むことによって得られる大きな利点の一つは,外部からの制御でインバータの出力が変えられることだ。これによって蛍光灯の明るさを変化させられる。当初は,段階的に明るさを切り替える製品が多かったが,最近では連続して明るさが変えられる製品も増えている。

マイコンで信頼性を向上

善積 弘明氏
丸善電機
代表取締役社長
善積 弘明氏

松本 幸一氏
丸善電機
品質保証室長
松本 幸一氏

 丸善電機の場合は,駆動回路の保護がマイコン制御インバータを導入した大きなきっかけの一つだったという。蛍光管の寿命が近づいて発光しにくくなってくると,従来のインバータ回路では自動的に供給電流が増えてしまうようになっていた。「インバータのおかげで寿命末期まで明るさを維持できるのは良いのですが,大きな電流を流し続けることから,今度は駆動回路の信頼性が急速に損なわれる恐れがありました」(丸善電機代表取締役社長の善積弘明氏)。大きな電流が回路に悪影響をもたらすだけでなく,回路が熱を発して,その熱でプラスチック部品が溶けてしまう可能性もある。こうなると蛍光管だけでなく器具全体を交換しなくてはならなくなる。

 そこで,同社はマイコン制御インバータを導入すると同時に,同回路に蛍光灯の寿命を監視する機能を盛り込んだ。「蛍光灯に供給する電圧を監視し,あるしきい値を超えたときに蛍光管の寿命が訪れたと判断。回路を遮断して強制的に消灯するようにしました」(同社品質保証室長の松本幸一氏)。

光と音で蛍光灯の寿命を報知

 ところが,保護システムを組みこんだところ新たな問題が市場で浮上してきた。蛍光灯の寿命が近づいてきたところで,いきなり勝手に消灯してしまうことから,消費者が照明器具の故障だと勘違いするケースが相次いだ。

 グローランプ方式の時代ならば,寿命が近づいてくると蛍光灯が点滅を始めるなど,分かりやすい予兆があった。こうした現象を見慣れている消費者が,突然消灯するのを見て故障と判断するのは,無理はない。そこで同社では2007年から,マイコンを利用した「ランプお知らせ機能」を追加した。マイコンが蛍光管に寿命が来たことを検知すると,回路を遮断する前に補助灯として搭載しているナツメ球を点滅させると同時に,ブザーをならして消費者に知らせる。その後に蛍光管の明かりを落とすようにした。「従来と同様に,寿命が近づいたときに異常な動きを始めるようにしたわけです」(善積社長)。ランプお知らせ機能を追加してから,ユーザーに故障と誤認されるケースは減ったという。同社は2009年春までにマイコン搭載の照明器具全機種にこの機能を展開する計画だ。