2008年のDRAM市場における「チキンレース」は勝者なしという結果に終わった――。半導体関連の市場調査を手掛ける米iSuppli Corp.は,2008年のDRAM市場をこのように評した(発表資料)。チキンレースとは,崖に向かって一斉に車を走らせ,ぎりぎりまでブレーキをかけなかったドライバーを勝者とする度胸試し。iSuppli社はDRAMメーカーの投資合戦をこのレースにたとえて「競合他社がゲームから降りるのを互いに期待したが,誰も降りず,誰も勝たなかった」とした。需要が減退する中で各社が生産能力を拡大し続けた結果,市場は供給過剰局面に陥り価格は大幅に下がって,携わるすべてのメーカーがダメージを受けたとする。

 DRAM市場は業界全体として2001年は巨額の損失を出したものの,その後2006年までは利益を上げてきた。メーカー各社は設備投資を大幅に増やし,2007年の業界全体の投資額は2001年の3倍の211億米ドルになったという。2000年以降,DRAMメーカーは累計で1000億米ドルもの設備投資を行っており,これは現時点での上位8社の時価総額の約2倍に相当する。

 iSuppli社によれば,DRAM市場の2008年の売上高は前年比19.8%減の252億米ドルで, 2007年に続いて前年実績を割り込んだ。さらに2009年も,世界経済の停滞を受けて4%減になる見込み。DRAMメーカー上位8社の営業損失は2007年と2008年の2年間で80億米ドルに達し,2009年を含めた3年間では110億米ドルに膨らむという。iSuppli社メモリ部門の主席アナリストであるNam Hyung Kim氏は「DRAM市場は7四半期連続で売り上げ規模が縮小し,メーカー各社で大量解雇,大幅な減産が続く危機的な状況を迎えている」とする。

 業界首位の韓国Samsung Electronics Co., Ltd.は,2008年10月~12月期決算でDRAM事業では赤字を計上する見込み。台湾Powerchip Semiconductor Corp.や台湾ProMos Technologies Inc.,台湾Nanya Technology Corp.および台湾に製造拠点を持つドイツQimonda AGは,台湾政府の救済策を頼みにしている状況という。韓国Hynix Semiconductor, Inc.は,地元の新聞社によれば,韓国政府系金融機関のKorea Development Bankなどから6億米ドルの融資を受けるとされる。

 iSuppli社は,メーカー各社の減産の効果で,2009年下期には市況は好転すると予測する。短期的には価格が安定し,政府などの救済策を受けるかどうかに関わらず,メーカー各社の赤字は減っていくとの見方である。「その2009年下期ごろまでの数カ月,DRAMメーカーはチキンレースではなく,今度はサバイバル・ゲームを強いられることになる」とKim氏は述べた。