――SPIDERのようなサービスと組み合わせた新しい機器を開発するうえで,ARIB運用規定が大きな障害になっているということか。

有吉氏 我々PTPは,今後20年から50年は通用する,まったく新しいテレビの楽しみ方を生み出すことを目指している。現在も,地上アナログ放送版のSPIDERを使っている約100世帯のモニターを通じ,SPIDERがもたらす視聴体験の変化を日々分析している。

 だが,我々が目指す新しいサービスやUIの開発に,ARIBの規定が壁となっているのは確かだ。同規定には「テレビの画面と一緒に別の画面を表示させてはならない」「リモコンには,青赤緑黄の4色のボタン*2を付けなければならない」などといったSPIDERのコンセプトと合わない項目がある。地デジ版SPIDERを設計する際には,こうしたARIB運用規定の記述を読み解き,規定を守りつつ,コンセプトを貫けるように対応する必要がある。

*2) 4色ボタン(カラーボタン)は,番組中にリアルタイムでアンケートやクイズに視聴者が答える双方向サービスやデータ放送において,機能選択のために使われている。放送コンテンツのタイムシフト視聴を前提とするSPIDERのような機器で,こうした機能が使われる可能性は低い。

 もちろん,実装を義務付けられた規定が存在する以上,我々はその規定を製品に反映させるつもりだ。問題になるのは,ARIB運用規定の解釈だ。ARIB運用規定は膨大で複雑なうえ,どこまでが必ず守るべき規定で,どこからがガイドラインなのか,どうすれば許されるのか,などを読み解くのが難しい。新規参入するベンチャー企業の立場では不安な部分が多い。しかもその規定自体が今後,変更される可能性をあるならなおさらだ。

従来のビジネスを前提に自ら足かせをはめている

 イノベーションを起こしたい人間にとって,あいまいな規定は大きな障害となる。「白」か「黒」かが見分けにくい規定はリスクになる。時間と労力をかけてUIやサービスを開発しても,製品化の直前で「この仕様は規定に反する」と異なる解釈を示され,出荷が遅れる事態になっては困るからだ。

 現在のSPIDERは,テレビ局の関係者からも「面白い」と認めてもらえるようになっている。SPIDERのようなテレビにまつわる新しいサービスが,テレビ局の新しいビジネスモデルを生み出す可能性は十分にある,と我々は考えている。だが現行のARIB運用規定は,これまでのビジネスモデルを前提に,自ら足かせをはめている面がある。これでは,新しい事業やビジネスモデルは生まれにくいのではないだろうか。

 とはいえ,我々のようなベンチャー企業がDpa(デジタル放送推進協会)に直接,ARIB規定改善の要望を送っても,実現の目は低いように思う。我々はそれよりも,SPIDERの開発を通じ,新しいライフスタイルを提示することで,関係者の意識を少しずつ変えていきたい,と考えている。