イスタンブルにベシクタシュという地区がある。トルコ共和国の祖,ケマル・アタトゥルクがその偉大なる生涯を終えたドルマバフチェ宮殿がある街だ。

 私がベシクタシュに向かった理由は,別にある。ある日本人から違法なDVDやゲーム・ソフトの宝庫だと聞いたからだ。「ベシクタシュのあのビルではどういう訳か,公然と売られているよ」(前出の日本人)。

 ベシクタシュに着いて,違法DVD・ゲームの販売店を探したが,見つからない。少ししゃれた服飾店ばかりが目につく。地下にPlayStationのロゴが張られた店があるので行ってみたが,ボーリング場だった。


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 さすがにこのビルで売ってないよな。そう思いつつも警備員にDVDを買いたい,というと,上の階にあると身振りで教えてくれた。最上階に行ってみて驚いた。ずらりと違法DVD・ゲームの販売店が並んでいたからだ。「公然」と前出の日本人が表現しただけのことはある。


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 数店を覗いた後,英語で店員が会話していた店に入ってみた。実際に買わないことには,話のウラをとれないからだ。品揃えを細かく見ていくと,米国物には劣るが日本の映画も充実していることに気づく。特にスタジオジブリの作品が人気のようだ。


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 「崖の上のポニョ」を見つけたので,早速値段を聞いた。
  「これ買いたいんだけど,いくら?」
  「5リラ(約300円)」
  「4リラでいいでしょ(約240円)」
  「んー,,いいよ」

 あっさり値が下がったので,もう少し踏ん張ってもよかったのだが,安く買うことが今回の目的ではない。4リラを差し出すと,店員は店の外に出て行った。店にあるのはパッケージだけで,商品は別な場所においてあるからだ。そうした方が,狭い店舗の売り場を広げられるし,摘発された時の損失を抑えられるに違いない。

 3~4分待つ間に英語が巧みな女性客と話すと,「この店のDVDは画質が最高。いつもここで買っていのよ」と屈託なくいう。イスタンブルは物価が東京並みに高い大都会だ。それでも,こういう暗部が当たり前に存在していることに,私は市場の多様さを感じた。

 「崖の上のポニョ」を受け取り,今度はゲーム・ソフトが充実している店に向かう。


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 あるPlayStation2用ゲームの値段を聞いた。
  「10リラだよ」
  「えっ,高いんじゃない」
  「2枚組だからさ。DVD1枚のゲームなら5リラだよ」
 なるほど,値段はDVDディスクの製造コストに比例しているらしい(もちろん,開発・制作費は無視)。

 とりあえず米Chumby Industries, Inc.のFounderもファンだという名作「塊魂」を買った(関連記事)。値段は,1リラまけてもらって4リラだった。だいたい正規品の1/20の値段だ。


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 もう一つ,私にはやらなければならないことが残っていた。いわゆるエッチなDVDを買えるかどうか確かめることだ。トルコはイスラム圏に属する。政府は性的コンテンツを厳格に規制しているかもしれない。しかも,トルコ政府はYouTubeなどの不適切なコンテンツを掲載しているとみなしたWebサイトへのアクセスを遮断している(ただし後者は国家侮辱罪(一部ではアタトゥルク侮辱罪と呼ばれる)が規制の主たる根拠)。


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 恥ずかしさを押し殺して塊魂を買った店で,そういうDVDがあるか聞いてみたが,英語が通じない。何度も話すうちに店員がニヤリと微笑む。そして,ここにはないとトルコ語と身振りで教えてくれたようだ。念のため,英語が通じる「崖の上のポニョ」を買った店でも聞いてみた。店員は「そういうのはインターネットで見なきゃ。トルコじゃ無理無理」という。

 YouTubeが規制されているのに本当に見られるのか,疑問を抱きつつホテルに戻って,日本人男性の多くが知っていると思われるYourfilehost.comにアクセスしてみたところ,あっさりつながった。UAEでは考えられない寛容さだ。若年層が多い国だけあって必要悪とされているのだろうか。理由はよく分からない。

 最後に「崖の上のポニョ」を再生してみた結果を報告する。まず気づいたのは,周期的に黒い影のようなものが画面の上から下に流れること。耳を澄ますと,なにやら人の声らしいきものが小さく聞こえる。そう,これは映画館で上映した画面を,ビデオ・カメラで撮影したものだった。私は違法なDVDの中でも質の低いものを買ってしまったのかもしれない。