テーマサイト「ナノテク・新素材」の2008年ランキングは,これまでの常識を覆すような新素材に対する期待が現われたランキングとなった。ランキング1位の記事は,「左手系メタマテリアル」という新素材で,「透明なマント」を作る「設計図」を作ったというもの。9位にもTHz波向けメタマテリアルを開発したというニュースが入った。

▼ 2008年「ナノテク・新素材」記事ランキング

順位記事タイトル日付
1「これが完全な透明マント」,日英の研究者らが設計図を完成04/16
2東大が伸びる配線を開発,カーボン・ナノチューブを利用08/08
3住田が屈折率2.02のガラスを発売,色なし・入手性良し・一眼レフに適用可03/14
4【nano tech】東芝,熱電発電システムで太陽電池に対抗02/15
5【MEMS 2008】透明で曲がるタッチ・シート,東大が有機ELディスプレイ向けに試作01/17
6カーボン・ナノチューブ・ウエハー上に3次元構造の電子部品を集積,産総研が開発05/07
7「原子サイズの建築会社を目指します」,IBMが原子チップや原子メモリの実現へ前進02/25
8NEDO,レンズ曲面に反射防止構造を形成する技術を開発05/21
9【応物学会】阪大と村田製作所など,THz波向けメタマテリアルを開発03/31
10【IEDMプレビュー】炭素の状態変化で次世代メモリ,Qimondaが開発12/15

(集計期間:2008年1月1日~12月21日)

 「左手系メタマテリアル」とは,電磁波が材料中を伝播する際の挙動を記述するパラメータとして重要な誘電率(ε)と透磁率(μ)が共に負となる材料のことである(用語解説)。左手系メタマテリアルの現象はかなり難解だが,日経エレクトロニクスは2008年11月17日号から隔号で解説記事を4回連載しているので,興味のある方はご覧頂きたい。

円柱状の透明マントの断面。黄色は光の軌跡。
円柱状の透明マントの断面。黄色は光の軌跡。 (画像のクリックで拡大)

 今回1位のニュースは,この左手系メタマテリアルを使うと,電磁波が通過しても反射や位相遅延が全く発生しない「透明マント」ができることが理論的に分かったということである。「透明マント」ができると何がうれしいのかというと,反射が全くなかったり,完全な焦点が得られるレンズなど,従来の材料では考えられないような光学デバイスが実現できる。そして,研究の究極の目的は「電磁場を自由自在に制御する」ことにあるという(関連のNEブログ)。

 有機材料を使って,伸びたり,曲げたりできる配線に対する注目度も高かった。2位となった「伸びる配線」は,この上に,有機トランジスタを用いた電子回路を張ることによって,自由に伸び縮みする大面積デバイスが可能になる。「伸びる配線」を可能にしたのは,イオン性液体に溶ける弾性のある樹脂として,フッ素系樹脂の一種「Daiel-G801」を発見したことが大きいと言う。

 イオン性液体はもともと,SWNTを凝集させずに溶かすことができる材料として知られているが,このイオン性液体に樹脂を溶かすことが可能になったことによって,SWNTを樹脂中に均一に分散させることができたというわけだ。このSWNTには,直径3nm,長さ2~4mmと長いものを使うことによって,通常はSWNTがスパゲッティのように絡み合っており,デバイスを伸ばしても,絡み合ったSWNTが伸びることによって導電性を維持できると考えられている。SWNTの特徴をうまく生かした使い方といえよう。

 5位の「透明で曲がるタッチ・シート」は,PETフィルム上に「PEDOT:PSS」という有機半導体を配線パターンを形成したもの。有機ELなどを用いたフレキシブル・ディスプレイ上にこのシートを張り合わせて,タッチ・パネル機能を付加することを目指している。

 前述のメタマテリアルは究極的な光学デバイスを生み出すための基礎研究レベルのものだが,実用的な光学材料に対する関心も高かった(昨年のランキング記事)。3位には,住田光学ガラスの高屈折率ガラス「K-PSFn202」が入った。屈折率(nd)が2.02にもかかわらず,無色透明というものだ。これまで2以上の高屈折率ガラスは,黄色に着色していた。

 8位は,「曲面ガラスレンズをモールド成形すると同時に反射防止構造を形成する技術」であった。レンズ表面に光の波長よりも小さな円すい/四角すい状の構造を成形によりつくりこむというもので,これまでのコーティング工程を省くことができる,実用的なものだ。