図 CO<SUB>2</SUB>をCOに還元するRu-Re(ルテニウム・レニウム)超分子錯体光触媒の模式図(図は石谷治教授提供)
図 CO<SUB>2</SUB>をCOに還元するRu-Re(ルテニウム・レニウム)超分子錯体光触媒の模式図(図は石谷治教授提供)
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 東京工業大学大学院理工学研究科の石谷治教授の研究グループは,太陽光によってCO2を化学工業原料となるCOに還元する光触媒として,Ru-Re(ルテニウム・レニウム)超分子錯体の実用化にメドをつけた。開発のポイントはCO2を還元する能力に優れたRe錯体と太陽光中の可視光波長域の光(フォトン)を吸収するRu 錯体を巧みに組み合わせた点にある(図参照)。

 太陽光を用いてCO2をCOに変換できる光触媒が実用化されれば,「植物が光合成によってCO2からデンプンやショ糖などの炭水化物を合成するように,CO2から有用な物質をつくり出す人工光合成を実用化できる道が開かれる」(石谷教授)。CO2を原料として有効活用できるようになれば,地球温暖化対策の面でも意味があると注目されている。

 Ru錯体は太陽光中の波長500nm以上の可視光を量子効率(フォトン1個に対する生成物の比率)0.21と高効率で吸収する。一方、Re錯体はCO2をCOに還元する量子効率が0.59と高性能な光触媒として働く。Re錯体の量子効率は「現在,世界一の性能」と石谷教授は言う。CO2の還元する光触媒能力には優れているが,太陽光の可視光域での光吸収能力が劣るRe錯体の欠点を,可視光の吸収能力が高いRu錯体と組み合わせる超分子錯体として分子設計して解決した点に独創性がある。

 石谷教授の研究グループは,Re錯体は水と共存する環境でも,光触媒として水(H2O)をH2とO2にほとんど分解せず,CO2をCOに選択的に還元させる反応に着目し,研究を進めてきた。この結果,アミンなどの還元剤と共存する環境で,レニウム・ジイミントリカルボニウム系錯体がCO2を量子効率0.59と高効率で還元する錯体の分子設計に成功した。問題は,太陽光の主成分である波長400~800nmの可視光域での光級数能力が低く,450nm以下の紫外光域でしか光を吸収しないことと,錯体の安定性などだった。

 このため,増感剤として優れていることが知られているRu錯体に注目し,ルテニウム・トリスジイミン系錯体が可視光域の太陽光を量子効率0.21と効率良く吸収する分子設計に成功した。最近では「Ru錯体の量子効率を0.34まで高めるメドもつけた」(石谷教授)が,詳細はまだ公開されていない。

 光触媒能力に優れたRe錯体と,増感剤能力に優れたRu錯体を緩い結合様式で組み合わせる超分子錯体の構成・構造では多くの超分子の候補が考えられる。両方の錯体を単純に連結すると、Re錯体の光触媒能力が劣化する問題が起こる。このため,石谷教授の研究グループはRe錯体とRu錯体を連結する架橋配位子を丹念に調べ,共役系ではなく非共役系の方が優れてることを見出した。非共役系の配位子の長さやRe錯体の構造などを改良する分子設計を進めることで,実用的な超分子錯体を開発する構えだ。次の大きな課題は「超分子錯体を安定化することだ」と石谷教授は説明する。

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