前回は,センサ・ネットワークに利用する無線通信技術を概観しました。最終回の今回は,センサ・ネットワークのシステムを構築する上での留意点を述べます。電源供給の保守や実装の方針,セキュリティーの確保などに触れます。連載の目次はこちら(本記事は,『日経エレクトロニクス』,2008年4月7日号,「NEプラス」,pp.61-63から転載しました。内容は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)

 今後,センサ・ネットワークの応用を展開していくための技術的な課題と設計のポイントは何でしょうか。電源や実装,セキュリティーなどに注意すべきでしょう。

電源供給の保守性を考慮

図7 太陽電池付きセンサ「Solar Biscuit」
図7 太陽電池付きセンサ「Solar Biscuit」 (画像のクリックで拡大)

 BANとPANでは,生活の各場面に応じて人が電池を交換できます。このため,他の組み込み機器と同様に,消費電力を低減して電池交換の頻度を下げることを目指します。

 これに対しLSANやRANでは,メンテナンス・フリーにすることが要求されるので省電力では不十分であり,自律した電源供給が必要となります。芝浦工業大学 電子工学科 講師の南正輝氏の研究室では,「Solar Biscuit」3) という太陽電池を利用したノードを開発しています(図7)。センサ・ネットワーク関連機器を開発する企業であるアーズでは,太陽電池やキャパシタ,Liイオン2次電池から成る電源を含むセンサ・ノード「annuus」 を開発しています。

 システムの調整により電力の消費量の調節が可能です。データ送信時の電力消費が支配的であるため,データ送信間隔を長くすることで電池寿命は伸ばせます。ただし,送信間隔はセンシングするデータに依存します。例えば,ジェスチャー認識に用いる加速度であれば数十ms間隔でのサンプリングが必要ですが,気温であれば数分間隔にすることも可能かもしれません。

 先に述べた「トラフィック偏在」により,マルチホップ通信ネットワークにおいては,シンクに近い所ほど転送回数が増え,消費電力も増えます。このため,トラフィック流量も加味して電源を考えるべきです。例えば,シンクに近いルータ・ノードの電池を大容量にしたり,簡単に電池交換が可能となるように設置を考慮したりします。