いまや8ビット・マイコンの世界で圧倒的な存在感を誇っているのが,米Microchip Technology Inc.である。8ビット・マイコンの世界は非常にプレイヤーの数が多い。アーキテクチャだけ見ても,米Intel Corp.の「8051(MCS51)」や「8086/80186」,米Zilog,Inc.の「Z80」,米Motorola, Inc.(現在Freescale Semiconductor, Inc.)の「68H」,米MOS Technology社の「6502」といった古いものから,ルネサステクノロジの「H8」やNECエレクトロニクスの「78K」,STMicroelectronics社の「ST6/ST7」といった比較的最近登場したものまで,実に多くの種類がある。最近ではプログラマブル・ロジック・デバイス(PLD)の大手である米Xilinx, Inc.も,8ビットのCPUコア「PicoBlaze」を提供している。そのうえ,8051とか80186については,互換製品を提供しているデバイス・メーカーが数多くある。

 このため,動作周波数やパッケージ,消費電力,統合する機能などの観点では,ユーザーは多彩な選択肢が用意されている。こうした中でMicrochip Technology社の「PICシリーズ」が市場で優位を占めているのには様々な理由があるだろう。だが,その中でも特に大きいのは,同社が8ビット品に専念してきたことではないだろうか。

 Microchip Technology社は,もともと米General Instruments Corp.で電子部品を担当する一つの事業部門だった。1987年に子会社として分社化。1989年には社名を現在のMicrochip Technology社に変更して完全に独立する。

 同社は独立当初から,8ビット品に専念していた。1989年といえばIntel社が「80486」を発表した年だ。翌年の1990年にはMotorola社が「68040」を発表。MIPS Technologies, Inc.は,「MIPS32/64」のアーキテクチャを発表した。つまり当時,世の中のマイコンの趨勢は,すでに32ビットに移っていた。Microchip Technology社の方針は,こうした市場の流れに逆らっているかのようにも見える。だが,結果としてこの決定は同社に大きな成功をもたらした。

OTP品の便利さが市場で高評価

 最初の製品は「PIC16C5Xファミリ」である。製品名に使われている「PIC」は,General Instruments社時代に製造されていた「PIC1651」の場合,当初は「Programmable Interface Controller」の略とされたが,ほどなく「Programmable Intelligent Computer」の略に変更された。さらにMicrochip社として独立した後には「Peripheral Interface Controller」の略となった。PIC16C5Xファミリは,外部からプログラムを1回だけ書き込めるOTP(One-Time Programmable)タイプの8ビット・マイコンだった。RISC(reduced instruction set computer)型の概念を採り入れた独自の命令セットを採用しており,命令数は33。1命令が12ビット長というものである。


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 パッケージの種類が豊富で,中には内蔵EPROMを外部から消去するために窓が付いているパッケージも含まれている。このため,開発中は窓付きのパッケージを使った製品を使い,開発が完了したら窓が付かないプラスチック・モールド品に切り替えるといった使い方ができた。このほかに,マスクROM版も提供している。当初のPIC16C5Xファミリの製品は,ROMが512バイト程度,RAMは25バイト程度しかなかった。またI/Oも12本とそれほど充実したものではなかったが,このOTPの仕組みの便利さは,多くの設計者が注目した。しかも,8051系やZ80系のマイコンと比較して,システムの部品点数を少なくできるという点も市場で評価された。