光の量でLED切れも自動検出

 10年間メンテナンス・フリーを実現するための機能の一つは,LEDが切れてしまった状態を自動的に検出する自動試験機能だ。LEDとフォトダイオードの間は,直接光は届かないようにはなっているものの,通常の状態でわずかな光がフィトダイオードに入るように設計されている。まったく光が入らなくなった場合は,LEDが切れている状態とマイコンが判断できるようにするためだ(図3)。

図3
図3 LEDの故障を検出する仕組み
常時LEDをわずかに発光させることで,LEDの故障を検出できるようにした。

 検出部の汚染対策にもマイコンが必要だった。10年近くも使っていると,火災報知器内部に汚れが付着してくる。その汚れがLEDの光を反射し,誤って警報を発する恐れがある。そこで,通常検出する値がゆっくりと上昇した場合は,火災と判断するときのしきい値も,それに応じて補正するようにした。「しきい値だけでなく,時間に応じた判断を要する機能は,マイコンがなければ実現できなかったと思います」(浅野氏)。

 もう一つ,10年間のメンテナンス・フリーを実現するうえで壁となったのが,バッテリーの寿命である。ビル用の火災報知器ならば集中制御用のケーブルなどを使って,常時電源に接続することが可能だ。ところが住宅用の場合,住宅を建設した後に設置することを想定すると,電池を使ってスタンドアロンで動作するようにしなければならない。電池の交換をしないままで,10年間の動作を保証するとなると,徹底的に内部回路の省電力化を図らなければならない。ここでもマイコンが活躍している。

三つの動作モードを使って消費電力を低減

 同社の製品が搭載しているマイコンは,「NORMAL」「SLOW」「HALT」の三つの動作モードを備えており,プログラムによってモードを選択できる。同社の火災報知器では,この三つのモードを周期的に切り替えることで,マイコンの消費電力を抑えた。

 同社が開発したプログラムでは,10秒に1回の周期で煙を検知する動作を行うようになっている(図4)。10秒ごとに検知する時には,マイコンはクロック周波数8MHzでフル動作するNORMALモードで稼働する。ただし,その時間は10秒間のうち,わずか30m秒~40m秒。それ以外の時間はSLOWモードまたはHALTモードで動作し,いずれのモードにおいてもクロック周波数は20KHzまで下げる。1周期の間で大半を占めるHALTモードでは,タイマー機能に必要な回路だけが動いているので,消費電力が大幅に下がる。NORMALモード時では数mAであるのに対して,HALTモード時の消費電力はわずか数μAである。SLOWモードでは,LEDの駆動回路を立ち上げる動作を始める。それでも消費電力は約20μAに過ぎない。「この三つのモードを切り替えることで,全体での平均の消費電力を10μA以下に抑えることができました」(浅野氏)。

図4
図4 電力制御の流れ

 住宅火災による死者の約6割が「逃げ遅れ」によるものだという。この対策に火災報知器が有効なのは明らかだ。だが,一般家庭での使用環境に適した火災報知器が,従来はなかった。マイコンのおかげで家庭でも使いやすくなった火災報知器は,住宅への設置義務化と相まって火災による被害者減少に大きく貢献するに違いない。