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図1 ホーチキの住宅用火災報知器「SS-2LQ」

 2006年6月から新築住宅への設置が義務づけられた「火災報知器」(図1)。従来から火災報知器は,ビルなどの防災システムの一つとして普及していたものの,最近まで住宅用となると市場は極めて小さなものだった。義務化によって住宅用火災報知器の市場が一気に広がったわけだが,実は住宅用のシステムを実現するうえでマイコンが重要な役割を担っていた。そこで,火災報知器の大手メーカーとして知られるホーチキに,その理由などについて聞いた。

 住宅への火災報知器設置は,新築住宅だけでなく,既存住宅についても2011年までに取り付けることが各自治体の条例で義務づけられている。これまで火災報知器といえば,大半がビルの防災システムだったが,住宅への設置義務化を受けて火災報知器メーカー各社は,住宅用のラインナップ拡大に乗り出している。この中の1社がホーチキである。

家庭用に必要な学習機能

図2

図2 火災報知器の内部構造

火災報知器内に煙が入った場合,LED(右の赤丸)から出た光が煙の粒子に反射し,フォトダイオード(左の赤丸)がそれを検出する。

 火災報知器が火災を検知する仕組みにはいくつかある。住宅用については,ほとんどが煙を検知して警告音を発生する「光電式スポット型」という仕組みを採用している。光電式スポット型の火災報知器は,LEDと,光の強さに応じた信号を出力するフォトダイオードを使って煙を検出する(図2)。通常はLEDの光がフォトダイオードに直接届かないようになっている。煙が火災報知器内に入り込むと,LEDが発した光が,煙の粒子に当たって乱反射し,反射した光がフォトダイオードの受光部に到達する。このときフォトダイオードが出力する信号をA-D変換し,その出力データをマイコンで監視する。データがあるしきい値を超えたときに,マイコンが火災発生と判断し,警告音を発生させる。

 この方式は,熱を検知するタイプの火災報知器よりも早く火災を検知できるのが特徴である。「特に天ぷら油が原因の火災などでは実際に火がつく前に検知できるため,住宅用では大きな効果を発揮します」(同社技術生産本部開発研究所センサ開発部センサ開発課LSチームリーダーの浅野功氏)。

浅野 功氏

ホーチキ
技術生産本部開発研究所
センサ開発部センサ開発課
LSチームリーダー
浅野 功氏

 ところが煙の量は,家庭内の設置場所によって変わる。居住する人の喫煙習慣にも考慮しなければならない。そこで同社は,マイコンを使った学習システムを組み込み,煙感知のレベルを火災報知器が自動調整するようにした。火災報知器は初期状態では一定以上の煙を20秒間検出したら警告音がなるように設定されている。これに対して,定常状態で煙っぽい環境だと判断すれば,検出時間を30秒に自動的に調整し,誤検知で警告音が鳴ることがないようにする。逆に煙のない環境ならば検出時間を10秒に縮めて,感知の精度を高めている。

 もう一つ,マイコンが役だった家庭用火災報知器に特有の課題が,長期稼働の実現である。一般にビル用の火災報知器は,定期的にメンテナンスをする前提で設置されている。一方,住宅用の火災報知器にビル用と同様のメンテナンスをユーザーに課すのは非現実的だ。消防庁の通達では,住宅用の火災報知器についてはメンテナンスが行われないことが前提になっている。その代わり,10年をメドに交換しなければならない。つまり10年はメンテナンス・フリーで動き続けなくてはならないわけだ。こうしたシステムを実現するうえで,欠かせなかったのがマイコンである。