可聴域雑音とは別に音声関連で対策を求められるのが,「D級アンプから発する雑音」(前出の雑音対策に詳しい技術者)への対策である。D級アンプは従来のアナログ・アンプに比べて音質が良いものの,発する雑音は音声通話やワンセグの受信感度を低下させる原因となるという。

 こうしたバースト雑音やD級アンプから発する雑音への対策手法は,機種ごとに異なる(図4)。例えば,「FOMA F906i」や「FOMA P906i」では,スピーカー周辺部に,対策用とみられるコンデンサなどの受動部品を複数実装した。一方,「FOMA N906i」は,スピーカー付近に対策用の受動部品を取り付けられるように,基板上にランドを用意してある。だが,実際には利用していない。D級アンプを内蔵する音源LSI付近に実装した数個の受動部品で間に合ったとみられる。前出の部品メーカー技術者は,「非常にシンプルな対策」と評価する。


図4 スピーカーに載る雑音を抑制する GSM方式での送信時に発生するバースト雑音は,可聴域雑音の原因になりやすい。また,D級アンプが発する雑音は,ワンセグなどの受信感度を低下させる原因になる。こうした雑音への対策のために,例えばF906iでは,スピーカー周辺部に巻き線インダクタや,コモン(同相)・モード雑音とノーマル・モード雑音の2モードの雑音を抑制できるフィルタ部品を実装している(a)。巻き線インダクタを用いるのは,スピーカーの出力が大きく,インダクタに大きな電流が流れるためとみられる。P906iでは,同じ対策のために積層セラミック・コンデンサを複数個利用している(b)。N906iはスピーカー付近に雑音対策用の受動部品のランドが設けてあるものの,実際には部品を実装していない。D級アンプを搭載する音源LSI付近に数個の受動部品を実装するだけで対策が間に合ったとみられる(c)

念入りに信頼性を高める

 いくつかの機種では,必要以上とも思える念入りな信頼性向上への取り組みがみられる。例えば「FOMA SH906i」は,2次電池の接触端子数が5本と多い(図5)。機能を満たすだけなら,正極側,負極側,接地側にそれぞれ1本ずつ,計3本あれば問題ないだろう。本数を増やしているのは,接触不良の可能性を低減させるためとみられる。


図5 念入りに信頼性を高める 906iシリーズを分解したところ,信頼性の向上に腐心している個所が見られた。例えばSH906iでは,2次電池の接触端子数が正極側2本,負極側2本,接地側1本の計5本と多い(a)。正極と負極の端子数を増やすことで接触不良の可能性を低減させるためとみられる。このほかF906iは,外部接続端子に金メッキを施している(b)。酸化皮膜の発生による接触不良を抑制する狙いがあるようだ。

 このほか,「FOMA F906i」は外部接続端子に金メッキを施している。酸化皮膜の発生を抑制し,接触不良を防ぐ狙いがありそうだ。こうした「過剰」とも思える対策は,「コストアップをいとわず,信頼性を高める日本メーカーの姿勢をよく表している」と,ある部品メーカーの技術者は評する。