EMI抑制シートだけでなく,電磁雑音対策に使う小型の金属シールド・ケースの数も増えているようだ(図2)。「例えば,比較的大きな金属ケースを使い,複数のLSIなどをまとめてシールドしていた。以前より小型ケースが増えている感じだ。いわゆる自家中毒への対策が意識されるようになってきたことで,雑音発生源となる部品ごとに個別に細かくシールドする必要が出てきたのだろう」と,部品メーカーのある技術者は推察する。


図2 小型の金属シールド・ケースが増加 電磁雑音の影響を抑えるために,小型の金属シールド・ケースが数多く利用されている。自家中毒対策とみられる。写真は,N906iμのキーボード側のメイン基板である。(写真:フォーマルハウト・テクノ・ソリューションズ)

図3 絶縁シートをはがして接地を取る N906iμでは,輻射される電磁雑音を抑制するために,フレキシブル基板に張り付けた金属シート上の絶縁シートをはがしている。金属部分を露出させ,伝送路の途中に接地を確保するためである。これにより,発生する電磁雑音を抑制し,かつ雑音の周波数帯域を信号周波数とずらして,電磁雑音による信号劣化を抑えるという目的がありそうだ。

 液晶パネルの高精細化や撮像素子の高画素化も,電磁雑音対策を難しくしている。ヒンジ部の配線を通るデータの伝送速度が上がり,放射電磁雑音が大きくなるからだ。例えばN906iμでは,フレキシブル基板に張り付けた金属シート上の絶縁シートをはがし,伝送路の途中で接地しているようだ(図3)。放射電磁雑音を抑制しつつ,「雑音の周波数帯域を信号周波数とずらして雑音の影響を弱めているのではないか」(部品メーカーの技術者)と推察する。「細線同軸ケーブルではよく見掛けるが,フレキシブル基板では珍しい」(同)という。

GSMが新たな雑音源に

 スピーカーからの音に混じる約20kHz以下(人間の可聴域)の雑音も映像と同じく,その影響が利用者に分かりやすい。音楽配信サービスやワンセグの普及によって,スピーカーの音質に対する要求は高まり,対策の重要性が増している。可聴域雑音はスピーカーだけでなく,マイク音にも影響を及ぼす。そのため,うまく対策を講じないと,話し相手に雑音が聞こえてしまい,音声が聞き取りにくくなる。

 可聴域雑音の中で問題視されているのが,GSM方式で送受信時に発生するバースト雑音だという。217Hzと可聴域の雑音である上,出力も大きいからである。

 こうしたバースト雑音への対策はこれまで,海外メーカーのGSM端末では常識的に実施されてきたが,GSMに対応しない日本向け携帯電話機では必要なかった。しかし,GSMの国際ローミング機能が標準的に搭載されるようになり,日本向けの携帯電話機でも対策を迫られるようになってきたという。NTTドコモのFOMA対応機では,「905iシリーズから本格的に対策が求められるようになった」(前出の雑音対策に詳しい技術者)。