「FOMA 906i」シリーズ全機種の分解結果を解説する記事の後編。前回は,多機能化を実現する上でカギになるアンテナの実装方法と,薄型化の技術を取り上げた。今回は,各機種の雑音対策を比較する。資料編として,各機種の基板写真も掲載した。(本記事は,『日経エレクトロニクス』,2008年9月22日号,pp.101-107から転載しました。内容は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)
第3部 雑音対策 多機能化に伴い,ケースやシートが増加

   限られた容積に数多くの部品を詰め込まなければならない最近の携帯電話機では,雑音対策はますます難しくなっている。LSIなどの部品間や信号線の間隔が狭まり,電磁雑音の影響を受けやすくなる。

 雑音対策に詳しい部品メーカーの技術者は,FOMA 906iシリーズを分解して「EMI抑制シートやガスケットなどを筐体内側に張り付ける,いわゆる後付けの電磁雑音対策が増えている」と話す(図1)。増えた機能部品に対し,新たに対策部品を配置するほど実装面積の余裕がないため,こうした後付けの対策部品の出番が増えた。この事実がある意味,電磁雑音対策の難しさを如実に示している。こうした状況に商機を見いだし,「EMI抑制シートを手掛けるメーカーが急増している」(同)という。

図1 EMI抑制シートで電磁雑音を抑える 携帯電話機の多機能化に伴い,EMI抑制シートの利用が急増している。基板に実装した受動部品で構成したフィルタや金属シールドだけでは,LSIや液晶ドライバICなどから発生する電磁雑音の影響を完全に抑えられないためである。例として,P906iを取り上げた。
図1 EMI抑制シートで電磁雑音を抑える 携帯電話機の多機能化に伴い,EMI抑制シートの利用が急増している。基板に実装した受動部品で構成したフィルタや金属シールドだけでは,LSIや液晶ドライバICなどから発生する電磁雑音の影響を完全に抑えられないためである。例として,P906iを取り上げた。 (画像のクリックで拡大)

 906iシリーズでは,ワンセグの受信感度低下を招く電磁雑音への対策に各社の力が入る。受信感度の低下による映像品質の劣化は利用者に気付かれやすく,ユーザー満足度の低下に直結してしまう恐れがあるためだ。「ワンセグ放送がきれいに見えないと,ユーザーからの苦情につながってしまう」(NTTドコモ)。

 そもそもEMI抑制シートの利用が増えた大きなきっかけが,ワンセグ受信機能の搭載だった。「今までは800MHz帯以上の信号に雑音が載らないように対策すれば,通話品質を向上できた。ワンセグを搭載すると470M ~770MHzといった従来よりも低い周波数帯での雑音対策が必要になるので,EMI抑制シートを使う機会が多くなった」(前出の部品メーカーの技術者)という。