厚みを作ってアンテナを小型化

 (1)~(3)では,金属ワイヤをループ形状として平面上に設置することで電波を受信する。「FeliCa向けアンテナとしては一般的な手法」(前出の電機メーカーの技術者)である。(1)のようにフレキシブル基板を使うと,コストはやや高くなるが薄く実装できる。(2)のようにガラス・エポキシ基板を使えば,フレキシブル基板を使うよりは安価だが厚くなる。携帯機器の設計現場では「スペースの有無によって,フレキシブル基板とガラス・エポキシ基板を使い分けている」(同技術者)ことが多いという。(3)のそのまま筐体内に配置する場合は,安価だがワイヤ形状が変形しやすく,アンテナ特性が変化しやすい。

 一方,複数の技術者が興味深い構造というのが,村田製作所製の(4)の長方形の両端に厚みを持たせた方式である。この方式の狙いは「実装面積の削減」(国内部品メーカーの技術者)とみられる。

 金属ワイヤを使って何重巻きものループ形状を作るFeliCa向けアンテナでは,実装面積を小さくしようとするとワイヤ間の距離が小さくなり,浮遊容量などの影響でアンテナとしての特性が変化してしまう。このため,両端にスペーサとなる絶縁体か磁性体を挿入することで立体構造を作る。これにより,ワイヤ間の距離を大きくして浮遊容量を抑え,実装面積の小型化を図っているようだ。デメリットは,厚みが増えることに加え,スペーサの挿入がコスト高につながる可能性があることである。

 FeliCaのアンテナの配置では,電池との重なりを防ぐことも重要になる。FeliCa向けアンテナと電池の配置が信号の送信部に対して重なる配置となると,電池の発生する雑音によって信号を受信できないケースがあるからだ。SH906iでは,電池とFeliCa向けアンテナの配置が重なるため,電池にNECトーキン製の電磁雑音抑制シート「バスタレイド」を装着することで電池雑音への対策をしている。「明らかにコスト高。なるべく避けたい設計」(国内部品メーカーの技術者)という声も聞かれた。

ワンセグは小型化と高機能化

 ワンセグ用モジュールはシャープ,村田製作所,パナソニック エレクトロニックデバイス(PED)の3社の製品が使われていた。自社系列のモジュールを採用するシャープとPMCは,その優位性を生かして他社と差を付けたようだ注2)

注2) ワンセグ・モジュールの価格は現在,700~800円程度という。2年前には2000円を超えていた。雑音対策などのために周辺回路を付加すると1000円程度になる。

 シャープはモジュールを小型化した(図3)。同社の前モデル「FOMA SH905i」や「FOMA SO906i」が搭載したモジュールより面積で13%小さい品種を使っている。一方のPMCは外販品にはない機能を付加した。このモジュールは松下電器産業製の受信ICを2個搭載して,受信感度の向上を狙う。


図3 ワンセグ・チューナーは小型化と高性能化 SH906iやSH906iTVで,シャープが採用したワンセグ・チューナー・モジュールは,わずか半年前に905iシリーズで採用したモジュールから面積で約13%小型化した(a)。 P906iでは,実装面積は増大するが,ダイバーシチ受信で感度を向上するために松下電器産業製の受信ICを2個搭載した(b)。