分解を通じて分かってきた事実を,ワンセグやFeliCa対応機能の進化(第1部「ワンセグと FeliCaのアンテナに工夫」参照)や,薄型化への取り組み(第2部「多機能と薄さを両立,熱対策にも苦心」参照),多機能化に伴う雑音対策の実情(第3部「多機能化に伴い,ケースやシートが増加」(12/26公開予定)参照)などに分けて報告する。

第1部 多機能化 ワンセグとFeliCaのアンテナに工夫

 「海外の端末では,回路の電源ラインに配置するチョーク・コイルはせいぜい2~3個だが,FOMA 906iシリーズでは各端末で7~8個使われている」(906iシリーズの分解に立ち会った国内部品メーカーの技術者)——。

 この技術者によれば,チョーク・コイルの数は「消費電力の大きな機能の数に比例する」。7~8個というコイルの数は,906iシリーズがいかに多機能かを如実に示しているという。

 906iシリーズは,高速データ通信のHSDPAやGSMなどによる国際ローミング機能,ワンセグ放送の受信機能,FeliCa対応,GPS受信,高画素数のカメラ,高解像度のディスプレイなどの機能をほぼ全機種が共通に備える。加えて,機種によってはBluetoothや無線LANの機能を持つものもある。今回,技術者の協力を仰いで分解した結果,906iシリーズの内部設計で特に目を引いたのが,アンテナに対する取り組みであった。ワンセグやFeliCa,GPSなど906iシリーズに組み込まれた機能の多くは,携帯電話機能とは別の周波数帯を利用するアンテナを必要とする。小さな筐体内に用途や対応する周波数の異なるいくつものアンテナを収める手法は,各社の違いが大きかった。例えば,内蔵式のワンセグ・アンテナを採用する機種が登場したほか,FeliCaではアンテナ素子を封入する材料や形状に対して,各社各様の取り組みが見られた注1)

注1) 海外でも,モバイル・テレビや,FeliCaと同様な近距離無線通信NFCなどへの取り組みが始まりそうだ。こうした状況に対して部品メーカーの技術者は「日本で培ったワンセグやFeliCaの技術を,ほぼそのまま生かせるだろう」とみている。

ワンセグ・アンテナは内蔵式に

 ワンセグ・アンテナを内蔵式としたのは「FOMA P906i」と「FOMA N906iμ」の2機種である。共にシールド板を兼ねると思われる大きな金属板を筐体に組み込み,ワンセグ放送の受信アンテナとして使っている。

 具体的には,P906iではディスプレイの背面,N906iμではディスプレイとキーボードの背面のほぼ全面にわたって金属板を配置していた。複数の技術者が,この金属板をアンテナ素子として活用していると推測する(図1)。波長と比べてある程度の大きさを持った導体であれば,アンテナとして十分に使えるからだ。ワンセグの地上デジタル放送の周波数帯は470M~770MHz帯であり,波長は390~640mm程度となる。端末サイズは100~200mm程度であり,アンテナとしては十分な大きさであるという。さらに,この金属板は,「大型化するディスプレイの発生する電磁雑音への対策も兼ねている」(前述の技術者)という。

図1 ワンセグ向けアンテナを内蔵 ワンセグ向けアンテナにおいて,パナソニック モバイルコミュニケーションズとNECは内蔵式のアンテナを採用している。1世代前の905iシリーズでは, すべてロッド式だった。ワンセグ用アンテナを使うためにP906iでは,主にメイン・ディスプレイの裏側部分をアンテナとして活用している。
図1 ワンセグ向けアンテナを内蔵 ワンセグ向けアンテナにおいて,パナソニック モバイルコミュニケーションズとNECは内蔵式のアンテナを採用している。1世代前の905iシリーズでは, すべてロッド式だった。ワンセグ用アンテナを使うためにP906iでは,主にメイン・ディスプレイの裏側部分をアンテナとして活用している。 (画像のクリックで拡大)