John Marshall氏
John Marshall氏
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 テレビなど家庭のAV機器に向けた,HDTV動画の無線伝送方式の業界標準争いが過熱している。これまで同手法には,無線LANの拡張方式と,UWB方式,そして60GHz帯のミリ波を使う三方式が提案されていた。それが昨年から今年に入り,日立製作所が 米TZero Technologies,Inc.のUWB技術を採用し,またシャープなど大手数社がイスラエルAMIMON社の無線LAN拡張方式「WHDI」を採用するなど,いよいよ実用化の段階に移りつつある。一方で,非圧縮HDTV動画の伝送が可能なミリ波方式は,潜在能力が高いものの,機器の市場投入が2010年前半ころとなり,他ソリューションに比較して遅いため,先行きを心配する声も上がっている。ミリ波を利用する伝送仕様「WirelessHD」の議長で,同仕様向けチップ開発を進める米SiBEAM,Inc.の創業者でもあるJohn Marshall氏に,意気込みを聞いた。

――イスラエルAMIMON社のWHDI技術などが,日本のAV機器メーカーへの採用を伸ばしている。一方でWirelessHDは,1080pで60フレーム/秒のHDTV動画伝送能力を持っているが,実用化にはまだ時間がかかりそうだ。WirelessHDの状況はどうか?
Marshall氏 WirelessHDは非常に順調だ。以下に説明しよう。
まず,我々のWirelessHDは,AMIMON社などが提案している技術と,市場を分けると考えている。我々の技術は「部屋内(In-Room)」に向けたものであり,他社の技術は「家中(Whole Home)」である。WirelessHDは部屋の中において,各種のAV機器を高速に接続する用途に向けたものだ。ミリ波の特性を生かす意味で部屋内に限定しており,壁越しの伝送などは想定していない。一方で例えばAMIMON社のWHDIは,異なる部屋での機器間接続も含めたソリューションである。

 ここで部屋内の接続用途において,WirelessHDは最良のソリューションだと確信している。それは,我々の技術が唯一,1080pで60フレーム/秒のHDTV動画を非圧縮で無線伝送できる手法だということだ。最大データ伝送速度は4Gビット/秒に達する。ちなみに私の理解ではWHDIの実効的なデータ伝送速度は800Mビット/秒だ。しかもWirelessHDはロスレスである。H.264などの圧縮技術を採用する場合に問題となる遅延時間(レイテンシ)は,我々の非圧縮技術では問題にならない。

 もう一つ訴えたいのは,我々の技術の知名度が,まだ製品化の段階を迎えていないにもかかわらず,既に高いことである。米Quantum Insights社の消費者調査によれば,「WirelessHD」を認識しているユーザーは30.2%に達しており,「UWB」の5.3%や「WHDI」の2.3%を大きく引き離していることだ。無線LANである「WiFi」の63%には及ばないものの,新技術としては高い注目を得ていると感じている。なお,この調査は2000人を母集団にして行っているもので,その最終結果を近々正式発表する予定だ。先ほど述べた数字は,そのうち342名のデータを基にしている。

――機器メーカーは,WirelessHDのチップなどがいつから利用できるかなど,スケジュールに強い関心を持っている。チップの製品化スケジュールは順調なのか?
Marshall氏 我々はオンスケジュールだ。来年1月に米国で開催される「International CES 2009」では,何らかのアナウンスが関連メーカーからあるだろう。ただし,具体的なことはまだ明らかに出来ない。また,互換性テストに関しても,スケジュール通り取り組みが進んでいると考えている。

――SiBEAM社について聞きたい。昨今の世界的な金融危機の影響により,民生機器関連のベンチャー企業の苦境が伝えられている。特にAV機器のワイヤレス市場に向けた半導体メーカーでは,UWBチップを開発するメーカーなどにおいて,開発中止に追い込まれているところもある。SiBEAM社の状況はどうか?
Marshall氏 当社は問題ない。当社は今年の4月に,4000万米ドルの資金を調達済みだ。この資金があれば,今後数年は,たとえ無収入だったとしても大丈夫である。当社は既に,パナソニックや韓国Samsung Electronics社が出資するなど,経営基盤はしっかりとしていた。

――SiBEAM社は既にWirelessHDのチップセットの出荷を開始しているが,価格が高いのではないかという見方もある。コストの点はどうか?
Marshall氏 我々は一貫して,トータルなBOMで比較することの重要性を指摘してきた。我々のソリューションは,周辺部品を含めたトータルなBOMでは,競合と十分競争できる範囲にあると考えている。例えば当社のRFチップには,アンテナ・アレイがチップのパッケージ上に実装されている。このため,外付けのアンテナが不要なことから部材コストを低減できる,といった具合だ。また,今後さらにチップの集積化を進めることで,周辺部材を減らして実装面積を削減する次世代品を開発中である。詳細なロードマップは明らかに出来ないが,チップ寸法やボードの実装面積は今後大幅に小さくなるだろう。

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