図1 解析されたリチウムケイ酸鉄Li<SUB>2</SUB>FeSiO<SUB>4</SUB>の結晶構造。超格子構造上に各構成元素の位置と電子密度分布を表記したもの(図は山田淳夫准教授提供)
図1 解析されたリチウムケイ酸鉄Li<SUB>2</SUB>FeSiO<SUB>4</SUB>の結晶構造。超格子構造上に各構成元素の位置と電子密度分布を表記したもの(図は山田淳夫准教授提供)
[画像のクリックで拡大表示]
図2 結晶構造内のFeO&lt;SUB&gt;4&lt;/SUB&gt;四面体とSiO&lt;SUB&gt;4&lt;/SUB&gt;四面体がつくる1次元鎖。(a)従来の予想モデル,(b)今回解析された1次元鎖。FeO&lt;SUB&gt;4&lt;/SUB&gt;四面体とSiO&lt;SUB&gt;4&lt;/SUB&gt;四面体が規則正しく回転しながら並んでいる,(c)基本構造の格子と,結晶の特徴を示す超格子構造を併記した構造図(図は山田淳夫准教授提供)
図2 結晶構造内のFeO<SUB>4</SUB>四面体とSiO<SUB>4</SUB>四面体がつくる1次元鎖。(a)従来の予想モデル,(b)今回解析された1次元鎖。FeO<SUB>4</SUB>四面体とSiO<SUB>4</SUB>四面体が規則正しく回転しながら並んでいる,(c)基本構造の格子と,結晶の特徴を示す超格子構造を併記した構造図(図は山田淳夫准教授提供)
[画像のクリックで拡大表示]

 東京工業大学大学院総合理工学研究科の山田淳夫准教授の研究グループは,リチウムイオン2次電池の正極材料として有望視されているリチウムケイ酸鉄(Li2FeSiO4:リチウム・鉄・ケイ素・酸素)の結晶構造を高輝度放射光を利用した高分解能粉末X線回折法(HR-XRD)などの手法を駆使して解明することに成功した(図1)。

 「従来予想されていた結晶構造に対して、FeO4四面体とSiO4四面体が1次元鎖状に長周期で規則正しく次第に回転する連結構造になっていることを明らかにした」と,山田准教授は説明する(図2)。リチウムケイ酸鉄の基本結晶構造が明らかになったことで,資源量が豊富な「ユビキタス元素」だけで構成されているリチウムケイ酸鉄を正極材料として材料設計する大きな手がかりを得たことになる。これによって安価なリチウムイオン2次電池を実用化できる道が示されたといえる。

 現在,携帯電話機やノート型パソコンなどの電池として利用されているリチウムイオン2次電池は,正極材料に希少金属元素であるコバルトを含むコバルト酸リチウム(LiCoO2)を主に用いている。コバルト原料の供給態勢が不安定になる可能性もあるため,その代替材料の研究開発が続けられている。また,コバルト酸リチウムは熱安定性が低いため,高温になると酸素ガス(O2)を発生する問題が指摘されている。このため,リチウムイオン2次電池の中で,体積当たりのエネルギー容量重視ではなく,コスト重視の電気自動車や電力貯蔵システムなどの大型電池向け用途として,安価なユビキタス元素から成る正極材料の開発が続けられてきた。最近,米国ベンチャー企業のA123 Systems社(マサチューセッツ州)は正極材料にリチウムリン酸鉄LiFePO4(P=リン)を用いたリチウムイオン2次電池を開発し製品化した。既に,電動工具やホビー向けに利用され始めている。日本でもラジコン模型飛行機向けの電池などとして輸入され始めている。

 オリビン型結晶構造をとるLiFePO4に比べて,リチウム元素を2個含むリチウムケイ酸鉄(Li2FeSiO4)を正極材料に用いたリチウムイオン2次電池は,優れた高エネルギー容量化が期待されているが,結晶構造の解明が進んでいなかった。

 山田准教授の研究グループは,出発原料となるLiCO3やFeC2O4・2H2O、SiO2粉末を十分に混合し、800℃・アルゴン雰囲気中で6時間焼結し、Li2FeSiO4試料を作製した。試料作製では「副反応が起きないように工夫し,粒径を数100nmと大きい試料を作製した」という。この粉末試料をX線粉末回折法や透過型電子顕微鏡の電子回折法などで分析し,複雑な結晶構造を解明した。この結晶構造は電子密度解析結果ともよく一致したという。

 Li2FeSiO4は現行のLiCoO2に比べて、CoとOの結合が強いので化合物としての安定性が高い。このため,「高温時に酸素原子が解離して酸素ガスが発生してしまう助燃性が低く,電池としての安定性が高い点も優れている」と山田准教授は説明する。

 今回の研究成果は,新エネルギー・産業技術総合開発機構が推進している次世代蓄電システム実用化戦略的技術開発プログラムの系統連携円滑化蓄電システム技術開発の一環として実施された研究開発による成果である。

この記事を英語で読む