Nokia社Qt Software部門Chief TechnologistのBenoit Schilings氏
Nokia社Qt Software部門Chief TechnologistのBenoit Schilings氏
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携帯電話機で動作するQtのデモ。左がNokia社の「N78」,右がシャープの「W-ZERO3es」
携帯電話機で動作するQtのデモ。左がNokia社の「N78」,右がシャープの「W-ZERO3es」
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 「Qt」はマルチプラットフォーム対応のユーザー・インタフェース用フレームワークである。複数のプラットフォームで動作するプログラムを作成する際に有効なツールとして,パソコン向けだけでなく組み込み用にも使われてきた。元々はノルウェーTrolltech社が開発を手がけてきたが,2008年6月にフィンランドNokia Corp.に買収され,Nokia社の一事業部門として同年10月にQt Softwareと改名して再スタートを切った。だがNokia社の「S60」プラットフォームには,別のユーザー・インタフェース用フレームワークが存在する。そこで今回の統合はどのような形になるのか,Nokia社Qt Software部門Chief TechnologistのBenoit Schilings氏に話を聞いた。

――まずNokia社による買収の結果,Qtがどのような形でS60に統合されるのかを聞きたい。

Schilling氏 S60向けのQtは,10月19日にプレビュー版の公開を発表したところだ。QtはNokia社にとって,三つのメリットをもたらす。まずソフトウエア開発のトレンドは,リソースの不足から開発効率が求められる。複数のプラットフォームに対応しやすいQtは,開発効率が高いという付加価値を提供できる。次にオープンソース・コミュニティーとの連携が挙げられる。Qtはこれまでも,デュアル・ライセンス方式を採って,オープンソース・コミュニティーと良い関係を築いてきた。これもNokia社にとってはプラスになる。そして,最後にユーザー体験に力を入れやすい。すでに優れたユーザー体験をもたらすことは,差異化の要因ですらなく,必須の要件となっている。3次元表示などを多用したユーザー体験を実現するのに,Qtは適している。

――しかし,S60プラットフォーム自体がユーザー・インタフェース用フレームワークを備えている。Qtがあってもそれほど開発効率が高くなるとは思えない。

Schilling氏 Qtは既存のS60用フレームワークを置き換えるわけではない。既存のS60向けソフトウエアのユーザー・インタフェースを,すべてQtで置き換えるというのはナンセンスだ。あくまでも新しい機能を追加する際にQtを使ってほしいということだ。

――つまりQtは追加の部品であるということか。別の言い方をすれば,これまで他のOS向けにアプリケーションを作成していた開発者を,S60に向かわせたいということか。

Schilling氏 その通りだ。これから新たにS60向けのソフトウエアを記述する際に,他のOSやユーザー・インタフェースと共通化が可能になる。これまでのQt開発者にとっては,携帯電話機市場という新たな機会をもたらすものだと考えている。

――正式な登場はいつごろで,ターゲットとする機器はどのあたりになるのか。

Schilling氏 正式版は2009年の第2四半期を予定している。現段階ではフル機能を移植したわけではなく,コア部分やネットワーク,ユーザー・インタフェースなどを移植した段階だ。早めにこのようなプレビュー版を公開することで,開発者が実験できることが重要だと考えている。
 性能に関しては表現するのが難しい。いつでも十分ということはないからだ。ただ,開発期間に対する高速化の曲線がある程度なだらかになるのが,2009年半ばくらいということだ。いずれにしても,それほど高性能な端末だけを対象とするわけではない。

――今後のQtはどのような発展を遂げていくのか。

Schilling氏 今後はユーザー・インタフェースを作りやすいWebベースのユーザー・インタフェースと,C++の性能を組み合わせていくことを考えている。現在レンダリング・エンジンとして「WebKit」をQtに統合している。これもその考え方に沿ったものだ。
 Webベースのユーザー・インタフェースは,簡単だが限界がある。例えば機器に固有の機能などを実現する場合などは難しい。そこでWebベースのウィジェットをC++のプログラム内で利用できるようにする。また,Web側からネイティブなプログラムへのアクセスも可能にする。これらを開発者に対する選択肢として提示する。