一方で,半導体ガス・センサは,異なる種類のガスを区別して検知する能力が劣る,という弱点がこれまで指摘されてきた。しかし,最近の情報処理技術の進歩によって,その弱点を補えるようになってきた。特性が異なる複数個のセンサからの出力を比較参照し,主成分分析などを施して測定対象のガス濃度を換算する。センサ素子は従来のものを使いながら,ガスを区別する能力が向上した。

 こうした半導体ガス・センサを利用した産業用の嗅覚センサが市販され,食品開発や品質管理の現場で使用されている。国内で最もシェアが高いのは島津製作所の「FF-2A」である(図11)。コーヒーの香りなら,モカとキリマンジェロをにおいで区別できる能力を持っている。FF-2Aは半導体ガス・センサを10個搭載する。硫化水素,硫黄系,アンモニア系,アミン系,有機酸系,アルデヒド系,エステル系,方香族系,炭化水素系の9種類のにおいを検出して,レーダチャートで解析結果を表示する。

図11 食品開発に向けたにおい分析装置 島津製作所が開発したにおい分析装置uFF-2A」(a)と分析システムの構成(b)。検知するガス種が異なる半導体ガス・センサを複数搭載し,検知結果を外部のコンピュータでパターン認識することによって,においを測定する。コーヒーの銘柄をかぎ分けるレベルの能力を備えている。(a)嗅覚センサの例(b)半導体ガス・センサを用いた嗅覚センサの構成表2 病気の種類によって,呼気中の特定成分のガス濃度が高まる。
図11 食品開発に向けたにおい分析装置 島津製作所が開発したにおい分析装置uFF-2A」(a)と分析システムの構成(b)。検知するガス種が異なる半導体ガス・センサを複数搭載し,検知結果を外部のコンピュータでパターン認識することによって,においを測定する。コーヒーの銘柄をかぎ分けるレベルの能力を備えている。(a)嗅覚センサの例(b)半導体ガス・センサを用いた嗅覚センサの構成表2 病気の種類によって,呼気中の特定成分のガス濃度が高まる。 (画像のクリックで拡大)

病気のにおいをかぎ分ける

 嗅覚センサの応用として,最近になって注目が集まっているのが医療分野である。人間が病気ごとに固有のにおいを発する性質を用いる。

 既に,CO2(二酸化炭素)の濃度を検知して胃炎や胃潰瘍の原因とされているピロリ菌の存在を半導体ガス・センサで測る装置は実用化され,日本でも医療機器として認定されている。