前回は,人間の五感それぞれに対応するセンサの開発状況を概観し,現在は開発の初期段階にある触覚センサを紹介した。今回は,引き続き触覚センサ技術の最前線を見ていく。連載の目次はこちら(本記事は,『日経エレクトロニクス』,2008年2月25日号,pp.62-65から転載しました。内容は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)

 触覚の仕組み自体を人間に似せた方式を開発した企業もある。シーエムシー技術開発は,カーボン・マイクロ・コイル(CMC)という炭素の微小コイルを利用した触覚センサ各種を作製している(図5)。CMCは,太さ約1μmの炭素の繊維が2本,2重らせん状に巻き付いた形状をしている注3)。コイル径は5~10μmと髪の毛の数分の1の太さ,長さが300μm前後と肉眼でやっと視認できる寸法である。ただし,カーボン・ナノチューブ(CNT)と比べると約1000倍大きい。

注3) CMCは,岐阜大学 工学部 応用化学科 教授の元島栖二氏が1990年に開発した。アセチレン・ガスを700~800℃で熱分解し,金属触媒を用いCVD(化学気相成長法)で作製する。

図5 人間の皮膚に似せる 人間の指先などには,「マイスナー小体」と呼ぶコイル状の触覚センサが多数埋め込まれている(a)。シーエムシー技術開発は,マイスナー小体によく似た炭素の微小コイル(CMC)をシリコーン・ゴムなどに埋め込んだ触覚センサを開発した(b)。CMCのネットワークに電気信号を流し,変調された信号のパターンを解析する(c)。静電容量型センサと同様に人の接近を検知できるため,エレベーターのドアなどに付ける人感センサなどの応用を想定する(d)。
図5 人間の皮膚に似せる 人間の指先などには,「マイスナー小体」と呼ぶコイル状の触覚センサが多数埋め込まれている(a)。シーエムシー技術開発は,マイスナー小体によく似た炭素の微小コイル(CMC)をシリコーン・ゴムなどに埋め込んだ触覚センサを開発した(b)。CMCのネットワークに電気信号を流し,変調された信号のパターンを解析する(c)。静電容量型センサと同様に人の接近を検知できるため,エレベーターのドアなどに付ける人感センサなどの応用を想定する(d)。 (画像のクリックで拡大)

 同社は,このCMCをシリコーン・ゴムなどに練り込んだ触覚センサを開発した。CMCの形状は,人間の触覚センサの一つであるマイスナー小体とほぼ同じ。ゴムに印加した数百kHzの交流電界の波形の変化を周波数分解してスペクトラムのパターンを検知する。「CMC1個がLCR回路の一種となり,CR回路を用いる静電容量型に近い原理でセンサを実現できている」(シーエムシー技術開発 代表取締役の河邊憲次氏)という。