前回までは,「五感センサ」に注目が集まる背景や今後の動向を概観した。今回からは,それぞれの感覚に対応するセンサの開発動向を解説する。触覚,嗅覚,味覚は五感センサの中でこれまで開発が遅れていたが,最近になって新しいセンサ素子の開発例が急速に増えている。開発指針は生体の感覚器官に,いかに近づくか。センサ素子だけでなく,配線や情報処理も生体が手本になっている。人間の感覚を再現できれば,それだけ「人間らしい」機器の開発に近づく。一部では既に,人間の感覚をはるかに超えるセンサも登場している。連載の目次はこちら(本記事は,『日経エレクトロニクス』,2008年2月25日号,pp.58-62から転載しました。内容は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)

 五感センサの開発は,センサの種類によって全く異なる段階にある(図1)。開発フェーズは,技術の高度化や実用化の観点から大きく,(1)新しいセンサ素子自体を開発している段階,(2)小型化や集積化が進んでいる段階,(3)情報処理や認識技術が発展する段階,に分けられる。

図1 触覚,嗅覚,味覚が視覚や聴覚を追い上げへ 五感センサのそれぞれの開発フェーズと,「人間の感覚」と比較した場合の位置付けを示した。開発フェーズが初期段階に近い順から見ると,触覚は人間の皮膚感覚の再現や機能集積型チップの開発が同時に進行。嗅覚は,人間には分からない各種ガスを検出するセンサの小型化が急速に進みだしている。味覚は,人間が検知する仕組みを再現できるようになってきた。聴覚は,Siマイクなど素子の微細化のほか,「特定話者の感情」といった特定の意味を抜き出せる,単なる音声認識を超えた技術が登場している。視覚はセンサ素子から情報処理,画像処理まで幅広く研究と応用が進んでいる。最近は,高速処理と高精細の両立が課題になっている。
図1 触覚,嗅覚,味覚が視覚や聴覚を追い上げへ 五感センサのそれぞれの開発フェーズと,「人間の感覚」と比較した場合の位置付けを示した。開発フェーズが初期段階に近い順から見ると,触覚は人間の皮膚感覚の再現や機能集積型チップの開発が同時に進行。嗅覚は,人間には分からない各種ガスを検出するセンサの小型化が急速に進みだしている。味覚は,人間が検知する仕組みを再現できるようになってきた。聴覚は,Siマイクなど素子の微細化のほか,「特定話者の感情」といった特定の意味を抜き出せる,単なる音声認識を超えた技術が登場している。視覚はセンサ素子から情報処理,画像処理まで幅広く研究と応用が進んでいる。最近は,高速処理と高精細の両立が課題になっている。 (画像のクリックで拡大)