iPhoneやWiiが備える「直感的なユーザー・インタフェース」の成功に関心が集まっている。直感を実現するのは,人間の感覚器官と同様な情報を検知する「五感センサ」。五感センサの技術開発は目覚ましく,人間の感覚の再現,さらには人間の感覚をはるかに超えたセンサも実現可能になってきた。五感センサの動向をよく知ることで,家電やその他の電子機器の未来を予測できる。連載の目次はこちら(本記事は,『日経エレクトロニクス』,2008年2月25日号,pp.52-55から転載しました。内容は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)

 「iPhoneやWiiの登場で,『マウスがインタフェースの完成形』という思い込みからようやく皆が解放された」——。東京大学 大学院情報学環 教授で,同時にソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL) インタラクションラボラトリー 室長である暦本純一氏は,ソニーCSLで1990年代後半から「マルチ・タッチ」と呼ぶユーザー・インタフェース(UI)を研究していた。これは,米Apple Inc.が2007年に発売した「iPhone」のUIに非常に似ており,Apple社に何年も先んじていると言えるものだった。ところが,当時はUIといえばマウスという時代で,「マルチ・タッチは実用化にはまだ遠いと社内で言われた」(同氏)という。

五感センサで感情を伝える

 暦本氏は,iPhoneなどの登場をきっかけに,今後UIの多様化が一気に進むとみる。例えば機器のUIは「人間同士の触れ合い」(同氏)のような感覚に近づき,将来は握手のように感情をやり取りできるものになると予測する(図1)。「一度,そうした人間的なUIを使ってしまうと,押しボタンやマウスなどを使うのが嫌になる」(同氏)。暦本氏にとっては,iPhoneやWiiの人気は驚きではなく,自明の理というわけである。

図1 ユーザー・インタフェースはボタンから五感センサへ 過去と現在,そして近未来に登場すると予想できるユーザー・インタフェースを示した。過去の家電やゲーム機のユーザー・インタフェースは,ほとんどが押しボタンで構成されている。最近になって,画面や筐体を触るだけで入力可能な携帯電話機や情報端末,振ったり踏んだりすることで入力するゲーム端末などが登場した。近い将来は,さまざまな五感センサを使って人間のあらゆる動きや感覚を検知し,ユーザー・インタフェースとする機器が登場する可能性がある。三洋電機のW61SAの写真は開発途中のもの。
図1 ユーザー・インタフェースはボタンから五感センサへ 過去と現在,そして近未来に登場すると予想できるユーザー・インタフェースを示した。過去の家電やゲーム機のユーザー・インタフェースは,ほとんどが押しボタンで構成されている。最近になって,画面や筐体を触るだけで入力可能な携帯電話機や情報端末,振ったり踏んだりすることで入力するゲーム端末などが登場した。近い将来は,さまざまな五感センサを使って人間のあらゆる動きや感覚を検知し,ユーザー・インタフェースとする機器が登場する可能性がある。三洋電機のW61SAの写真は開発途中のもの。 (画像のクリックで拡大)