図2
図2 タイガーのマイコン搭載加湿器に搭載された湿度センサー(赤丸部分)
室内の空気を取り込む際に湿度を検知し,マイコンが適切な湿度に誘導する。

 マイコン搭載のハイブリッド式加湿器では,部屋の空気を取り込む部分に湿度センサーを設置(図2)。実際の湿度を見ながら,ヒーターの電源をコントロールするだけでなく,十分な湿度があると判断すれば,ヒーターだけでなく空気を本体に取り込んで放出するための電動ファンの回転も止める。これにより加湿器のスイッチを入れたままにしておいても,湿度が上がり過ぎたりすることはない。消費電力も節約できる。

 だが,快適な部屋の環境を維持するためには,湿度だけを監視すればいいわけではない。実は,これが加湿器の自動運転を難しくしている。ここを解決したのもマイコンだ。

温度ごとのテーブルを参照して動作

 「部屋の湿度は50~60%ぐらいが快適とされていますが,これは室温が18℃~20℃程度の場合の話です。同じ湿度でも室温が24度ぐらいでは,人はジメっとした感じを受け,逆に16度ぐらいでは乾燥しているように感じます」(同社技術・開発グループ商品開発チーム副主事の上出博之氏)。常に一定の湿度を目標に制御したのでは,人間が感じる快適性は保てないというわけだ。

図3
図3 温度と湿度の関係
部屋の温度によって最適な湿度は異なる。マイコンはこのデータをテーブルとして持ち,センシングした温度をもとに最適な湿度を判断する。

図4
図4 加湿器の操作パネル
タイガーのマイコン搭載加湿器の操作パネル。「高め」や「ひかえめ」を選ぶと,湿度制御のもとになるテーブルの値を書き換え,「連続加湿」を選ぶとテーブルを無視して運転を続ける。

 そこでマイコン搭載のハイブリッド式加湿器では,温度に応じて目標とする湿度が自動的に変わるようにした。具体的には,空気に水分を供給するフィルターに空気を送り込む部分に温度センサーを設置。取り込んだ空気から室温を監視し,あらかじめマイコンのメモリに格納してあるテーブルを基に,温度に応じた湿度を選択。それを基準にマイコンがヒーターやファンを制御して放出する空気の湿度を制御する。こうした温度と湿度という2つの変数をもとに,機器の動作を制御するのはマイコンならではの機能と言える(図3)。ユーザーの好みに合わせて調整できるように,加湿器の操作パネルには,「高め」「ひかえめ」が選べるボタンが設けられている(図4)。これを押すとテーブルの数字が書き換わり,高めまたは低めの湿度に誘導できる。

 「人が出入りしたり,料理を始めたりすると,部屋の湿度は変化します。窓が結露し始めたりしても変わります。さまざまな要因で湿度は変化するので,多くの情報を基に,きめ細かく制御できるのが加湿器の制御の理想です」(上出氏)。加湿器は,マイコンを搭載したことによって,こうした理想に一歩近づいたといえよう。

 マイコンは,基本機能のほかに安全機能の実現にも貢献している。例えば,空気を取り込む経路に設けたフィルターの目詰まりによって,機器内部の温度が異常に高くなるのを防いでいる。フィルターが詰まると空気を取り込みにくくなるため,ヒーターの熱によって内部の温度が急上昇する恐れがある。そこで同社のハイブリッド式加湿器では,内部の温度上昇をセンサーで監視し,機器内の温度が急上昇した場合は,フィルターの目詰まりが発生したものとマイコンが判断して,ヒーターやファンを止める。

 快適さの追求など人間の感覚にかかわる課題の場合,ゴールはなかなか見えない。このため,こうした課題を抱える設計者は,様々な工夫を凝らしながら理想を目指して常にシステムの改良を続けなければならない。アイデアを効率よく具体化できるマイコンは,彼らにとって,極めて便利なデバイスといえよう。