特にブレード型などの高密度サーバーなどでは発熱を抑えることが重要だった事もあって,AMD社は低消費電力のラインナップを途中から増やした。Opteronの標準的な最大消費電力は90W~100W(世代や構成によって異なる)だが,より高い動作周波数で動作するSE(Special Edition)版は120W程度まで消費電力が引き上げられ,一方HE(Highly Efficient)版は55W~68W,EE(Energy Efficient)版では30Wに抑えられた。これらは選別品だったが,それでもこれらによって,組み込み向けにOpteronが使われる道が開かれたとも言える。実際EE版はそれほど長く提供されなかったが,HE版は現在に至るまでラインナップに残っており,通信機器向けのブレードサーバーなどの用途に広く利用されている。

 一方,デスクトップ向けも,意外と広い分野に応用された。130nm SOIの世代では消費電力が高すぎたが,90nm SOIを使った製品ではグンと消費電力が落ちたため,ファンレスは流石に無理にしても,それほど大規模な冷却システムは不要となった。特に90nmの3世代目となる「Orleans」や,これと同時期の「Windsor/Manila」といったコアを使った製品には低電力版が用意され,消費電力は35Wに抑えられた。ここまでくると,モバイル用CPUとさして違いが無くなった。しかも価格も安いとあって,POSレジスタぐらいの大きさの筐体を利用する機器に結構利用されるようになった。こうした用途ならファンを取り付けても騒音は問題にならない。しかも,性能や価格も十分つりあうからだろう。

バリュー品の動きが複雑化

 ちなみに,AMD社は「Duron」というバリュー向け製品ラインの廃止に伴い,新たに「Sempron」という製品ラインを投入している。実は,ブランド名のみの刷新と考えれば良いのだが,当初から「Thoroughbred」ベースの製品とNewcastleのバリュー向けである「Parisコア」の両方が市場に投入される。つまり同じSempronながらSocket A対応品とSocket 754対応品の二つが混在したわけだ。当初は相当混乱したが,さらにSocket 939に対応した製品もその後に登場した。つまり3種類のプラットフォームが混在した。Socket AM2に再統一されることになったのは2006年5月のことだ。

 このうちSocket 754ベースのSempronについては,低消費電力版がリリースされたこともあり,組み込み向けにも多少利用されている。ただ2007年あたりからIntel社との競争が再び激化したことを受け,メインストリーム向けのAthlon 64/X2やPhenomの価格がかなり下がった。このため,Sempronをわざわざ選ぶ必要がなくなってきた。それにも関わらずSempronが利用されるケースでは,利用するアプリケーションがDual Core以上に対応していないために,Sempronしか選びようがないといった事情があるようだ。

本格的なモバイル用が登場

 最後がモバイル向けである。当初から「Mobile Athlon 64」という名称で製品展開をしていたものの,これはモバイル向けというよりもDTR(DeskTop Replacement)という特殊な用途向け。消費電力が最大89Wと,到底モバイル向けとは言いがたい製品だった。本当にモバイル向けと呼べたのが,2005年に登場した「Turion 64」だった。消費電力は25W~35Wで,パッケージはSocket 754やこれを小型化したSocket S1(683pin)を採用していた。これならば組み込み用にも利用しやすい。

 当初はSingle Coreだったが,2006年にはこれをDual Core化した「Turion 64 X2」もリリースされる。このTurion 64 X2もやはり35Wの枠を守っており,結果として省スペース性が求められる場合はTurion系列,低価格が求められる場合はSempronやAthlon 64/Athlon 64 X2のEE版といった使い分けがなされるようになった。

 このTurionはいずれも基本的にはデスクトップ向けと同じ(完全に同じではなく,若干製造プロセスに違いはあるらしいが,アーキテクチャは同一)であるが,もう少しモバイル向けに設計したのが,2008年6月にリリースされた「Lionコア」の「Turion X2」である。コアそのものは従来のAthlon 64 X2(OrleansとかToredoの世代とアーキテクチャは同じ)を引き継いでいるが,メモリ・コントローラや電源管理などがモバイルに最適化したものとなっている。こちらはまだ製品が登場したばかりなので,現時点ではこれらを使った組み込み製品はほとんど見かけていないが,今後は出てきても不思議ではないだろう。

 さて今後であるが,AMDのロードマップを見る限り,しばらくは45nm SOIプロセスを利用した製品でラインナップを増やす方向で動いているようだ。とりあえず2009年には6コアの製品が予定されており,2010年にはDDR3に対応した新プラットフォームが投入される予定だ。デスクトップでは,Shanghaiコアをそのまま使う「Deneb」が投入されるほか,Dual Coreの新製品も予定されている。また,Intel社のAtomに対抗するための製品も予定されているらしいが,このあたりは同社の方針がしばしば揺れ動いているようだ。また組み込み用については,従来の組み込み関連事業部の資産をほぼ償却したに近い状態になっており,どの程度まで組み込み用に力を注いでくれるのかは明確にはなっていない。