前回に続き,米Advanced Micro Devices, Inc.(以下,AMD社)が開発したマイクロプロセサの系譜を紹介する。今回は,「K8」以降である。

 2003年4月,AMD社は「SledgeHammer」のコード名で知られていたK8製品を,「Opteron」という名称でまずサーバー向けに発売した。何故サーバー向けかというと,デスクトップ向けに競争力のある動作周波数を備えた製品が出荷できなかったという事情があったからだ。当時,AMD社は130nmプロセスで2GHz以上の製品をリリースしていたにも関わらず,SOI(Silicon on Insulator)技術と130nm プロセスを使ったSledgeHammerの当初の動作周波数は1.4GHz~1.6GHz。それも1.6GHzは非常に出荷量が少なく,1.4GHz品が大量に市場に出回るという状況だった。要するにまだSOIプロセスの熟成が足りなかったということだ。この結果,デスクトップ向けにUnbuffered DIMMを利用するデスクトップ向けの「ClawHammer」こと「Athlon 64」の出荷を始めるのは,約半年遅れとなった。しかも相変わらず動作周波数は低いままだった。

アーキテクチャ変更でつまづく

 この状況が幾分なりとも解消されるのは,「Newcastleコア」が登場した翌年のことだ。このコアは,同じようにSOI技術と130nm プロセスを導入していたが,いずれも技術の熟成が進んでいた。その後,デスクトップ向けには「Winchester」と呼ばれる90nmプロセスの製品がまず投入され,その後「Venice/San Diegoコア」がリリースされる。面白いのは,AMD社は同じ130nmあるいは90nm といっても,どんどんプロセスの改良を行っていることだ。例えばWinchesterコアはその前のNewcastleコアほど動作周波数は伸びていないものの消費電力がグンと下がっていた。さらにSan Diego/Veniceではもう一段消費電力が下がり,動作周波数も上がっていた。


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 こうした地道な改良が功を奏し,このSan Diego/Veniceの世代では性能面でも米Intel Corp.の「Pentium 4」とほぼ肩を並べるに至った。しかも,消費電力が遥かに低かったため,大きなアドバンテージを得ることができた。次いで2006年にはDual Coreをオンダイ構成とした「Athlon 64 X2」をリリース,対抗するIntel社は急遽MCM構成の「Pentium D」を前倒しで市場投入するが,性能の差は明白であった。結局Intel社がこの劣勢を挽回できるのは「Core 2」を投入する2006年後半からで,それまでの間にAMD社は大きくシェアを伸ばす事になった。

 これに続いてアーキテクチャが大きく変更されたのが,2007年に投入された「Barcelona」のときだった。ネイティブQuad Core構成であるが,それのみならずマイクロアーキテクチャ(特にキャッシュ廻り)にかなり大きく手を入れた。この背景には,サーバー市場でIntel社の逆襲が続いており,これに対抗するために実効性能の底上げが必要だったということがある。ところが,確かに性能は上がったものの消費電力がまたもや上がってしまい,結局発熱の問題で動作周波数が上げられないという,かつてIntel社がPentium 4で犯したミスを繰り返す事になってしまった。その後,SOIプロセスの改良などによって,性能を改善したものの,その間にシェアをだいぶ落とす事になってしまった。

 これを解決するのが,45nm SOIプロセスを使う「Shanghaiコア」だった。このコアのおかげで,ほぼ同一のアーキテクチャ(プロセス微細化に伴い,L2キャッシュのサイズを増やした程度で,あとは小変更やバグフィックスに留まる)を備えていながら,Barcelonaコアより高速かつ低消費電力の製品が実現できた。先行するのはやはりサーバー向けの「Opteron」で,デスクトップ向けの「Denebコア」は2009年第1四半期に「Phenom II」というブランドでリリースされる予定だ。

広い用途で活躍する「Opteron」

 さて,ここまでが概観となるので,もう少し細かい話を説明してゆこう。まずサーバー向けだが,こちらは構成などに関わらず全て「Opteron」というブランドで統一されており,コアの違いなどは全てモデルナンバーで吸収される形になっている。最初に書いたとおり,当初のSledgeHammerは動作周波数が伸びない割に消費電力が高いといった問題があったことから,早い時期から2コアあるいは4コア構成の製品展開を図る方針が採られた。実際コアそのものは同一でも,2コア/4コア/8コアと構成が大規模になるほど価格のプレミアが付けやすい。財政難に苦しむAMD社にはありがたい製品だった。ただし,その後プロセスの改良などによって,次第に採用が増えてきた事もあり,本来のサーバー以外の用途にもOpteronを利用しよう,というユーザーが出てきた。