佐賀大学理工学部機能物質化学科助教の川喜田英孝氏は,バイオマス廃棄物を原料にして吸着剤を調製し,電気・電子部品を溶かした廃液から金や銀,白金,パラジウムなどの貴金属を選択的に回収する技術を開発した。原価のほとんどかからない廃棄物を利用するためコストを抑えられる上,環境負荷も低減できる。

 廃棄物から貴金属を回収する方法としては,活性炭による溶媒抽出法,イオン交換樹脂やキレート樹脂を使った高分子樹脂吸着剤による抽出法などがある。しかし,これらの方法は,吸着容量が1~3mol/kgと少ない上,特定の金属を選択的に抽出するために金属認識部位を設計するとコストが2倍以上になる。そのほか溶媒抽出法では,トルエンなどの有機溶媒を使うため排水処理が大掛かりになる。高分子樹脂吸着剤による抽出法には,樹脂を焼却することで吸着した金属と樹脂を分けるため,タールやコークといった後処理が面倒な廃棄物が残る,という課題もあった。

 それに対して新しい方法では,バイオマス廃棄物を利用して吸着剤を造る。具体的には,セルロースやリグニンを含む古紙,またはポリフェノールを大量に含有する果物(柿やレモン)廃棄物から特定成分を抽出し,アミノ化反応によって調整する。このため,従来の方法に比べてコストを1/10~1/2に抑えられる。

 テトラクロロ金(III)酸4水和物を塩酸で溶かした廃液に対して果物由来の吸着剤を使った試験では,金を100%吸着できた。その後,古紙由来の吸着剤を導入したところ,導入する官能基の種類によって選択的に,白金やパラジウム,ロジウムなどを吸着した。白金やパラジウムについては,80%以上の抽出が可能という。吸着剤の吸着容量は3~10mol/kgで,活性炭や高分子樹脂の3倍以上だ。有害な有機溶媒を使わないため,環境負荷も少ない。

 なお,この研究は,新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の産業技術研究助成事業の一環として行われた。


  【訂正】記事初出時に,「電気・電子部品を塩酸で溶かした廃液に対して果物由来の吸着剤を使った試験では」と記載しましたが,「テトラクロロ金(III)酸4水和物を塩酸で溶かした溶液に対して果物由来の吸着剤を使った試験では」の誤りでした。記事本文は修正されています。

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