WCAで開かれたホワイトスペースのパネル。左からFCCのJim Schlichting氏,Motorola社のSteve Sharkey氏,FiberTower社のJoseph Sandri氏,米University of Nebraska, College of Law, Assistant Professor of LawのMarvin Ammori氏
WCAで開かれたホワイトスペースのパネル。左からFCCのJim Schlichting氏,Motorola社のSteve Sharkey氏,FiberTower社のJoseph Sandri氏,米University of Nebraska, College of Law, Assistant Professor of LawのMarvin Ammori氏
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 米連邦通信委員会(FCC)は2008年11月4日,テレビ放送向けに割り当てられた周波数帯のうち,実際には使われていない「ホワイトスペース」(Tech-On!関連記事)と呼ばれる周波数帯を,免許なしで利用できるように解放すると決断した(PDF形式発表資料)。

 ホワイトスペースを別の用途に有効利用するという計画は,米Google Inc.や米Microsoft Corp.といった米国のIT業界が強く推進していた。これに対して,米国のテレビ放送事業者や同周波数を利用するワイヤレス・マイクの業界,ワイヤレス・マイクを利用するエンターティンメント業界などが強く反発した。ある通信業界の専門弁護士は今回の決定を受けて,「FCCにこんな決断が可能とは思っていなかった」とコメントしている。専門家のこうしたコメントは,ホワイトスペース解放に対する反発の強さを物語る。

 2008年11月3日から米サンノゼ市で開催中の無線プロードバンド業界イベント「WCA’s 14th International Symposium & Business Expo(WCA)」では,ホワイトスペースに関するパネル・セッションが設けられた。FCCのWireless Telecommunications Bureau, Acting ChiefであるJim Schlichting氏はこのパネル・セッションで,今回のFCCの決断に関する概要を以下のように説明した。

 まず,固定端末と携帯端末の区別なく,無免許でホワイトスペースの周波数を利用できる。ただし,ホワイトスペースを利用する機器は,ホワイトスペース内で発信する前に免許を持つサービスや機器が同じ周波数を利用していないかどうかを確認して干渉を避ける技術の採用を前提としている。Schlichting氏はこの機能の実現のためにまず,免許を既に持っているサービスの地理的な位置情報をまとめたデータベースを構築する必要があるとした。端末はGPSなどの技術で自分の位置を測定し,このデータベースの情報と照合することで,干渉の発生を未然に避ける。ただし,このデータベースの作製・運用の責任者はまだ決まっていないとする。


出力制限は固定端末で4W,携帯端末で100mW

 データべース方式以外の方法として,信号の送出前に,免許を持っているサービスの信号を端末が検知して干渉を回避する方式も提案されている。Schlichting氏はこうした端末に関してはFCCの認証プロセスをデータベース方式よりもっと厳しくすると述べた。テレビ放送事業者はこうした干渉防止技術の信頼性に対して批判的であることに配慮した可能性がある。同氏によると,サービスを検知する技術を採用する個別の端末の認証プロセスは今後公開され,自由にコメントを受け付ける形になるという。ホワイトスペースを利用する無免許端末が利用できる送信電力などの詳細は明らかにしていない。ただし,こうした詳細を説明する資料は「あと数日で公開されるはず」(同氏)とする。

 ホワイトスペース議論に関わった米Motorola Inc.,Regulatory & Spectrum Policy,Senior DirectorのSteve Sharkey氏は,厳しい政治的な環境の中でFCCがこうした決断を下したことを歓迎した。「この決断は,主に地方の無線ブロードバンド・サービスの普及につながる」(同氏)。ホワイトスペースを利用する端末の送信電力について,固定端末は4W,携帯端末なら100mWになるだろうとコメントする。ただしFCCはこの件についてまだ明らかにしていない。Motorola社は無免許周波数を使う「Canopy」と呼ぶ無線ブロードバンド技術を既に持っており,送信出力が4Wならホワイトスペース用途に応用できそうだという。一方,100mWという携帯端末の送信出力制限に関しては,「企業や警察,消防団などがある地域を効果的にカバーする用途で使うには低すぎるという指摘がある」(同氏)。

 また,ホワイトスペースを使った無線ブロードバンド・サービスの実現に関しては,基地局と上流ネットワークをつなぐいわゆる「バックホール(backhaul)」通信を心配する声もあった。米FiberTower Corp., Regulatory & Government AffairsのSenior Vice PresidentであるJoseph Sandri氏は,今回の決定ではホワイトスペースをバックホール通信に利用できるかどうかが明らかでないと指摘する。地方で無線ブロードバンド・サービスを行うためには,バックホール通信に何らかの無線技術を利用する必要がある。「地域を限定する免許を発行して,ホワイトスペースをバックホール通信に利用できるようにするというアイデアもある」(同氏)。