図1 パイオニア 代表取締役社長の須藤民彦氏。
図1 パイオニア 代表取締役社長の須藤民彦氏。
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図2 新社長に就任する,現 常務取締役の小谷進氏。
図2 新社長に就任する,現 常務取締役の小谷進氏。
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 パイオニアは,2008年度第2四半期(2008年7~9月)の決算発表と同時に,社長交代の記者会見を行った(PDF形式の発表資料)。代表取締役社長の須藤民彦氏が2008年11月15日付で代表取締役社長を辞任し,現在,常務取締役の小谷進氏が代表取締役社長に16日付で就任する。須藤氏は取締役として,新社長のサポートに当たるとする。

 パイオニアは今回の人事の理由について,2008年度通期の業績見通しで営業損失が170億円,当期純損失が780億円になり,その経営責任を明らかにするため,と説明する。2008年5月13日時点の予想では営業利益70億円,当期純損失は190億円としていた。下方修正の最大の要因は,景気後退・競争激化による売上高の減少である。これだけで営業損益が想定よりも130億円減少すると見込む。須藤氏は「サプライズに近い数字の悪化になっている」「想像以上に数字が悪化している」と現状を表現した。自らの退任について「社内にも緊張感を持ってもらいたい」と説明した。

 後継の小谷氏はカーエレクトロニクス部門の営業や海外現地法人社長の経験に加え,2007年12月からはホームエンタテインメントビジネスグループ本部長としてホームエレクトロニクス部門の収益改善に向けてPDP生産からの撤退といった事業構造改革を進めてきたという経歴を持つ。須藤氏は次期社長に小谷氏を選んだ理由について「我が社の海外販売比率が7割と高い中,海外事業を理解し,判断,決断できる人物」「カーエレクトロニクスとホームエレクトロニクスの両方で仕事を経験している」といった点を挙げつつ,「自分は事業構造改革の道半ばでの交代となってしまい,忸怩たる思いがある。(小谷氏には)事業構造改革をきれいにやりきって,次の社長に引き継いでもらいたい」と,小谷氏による事業構造改革の遂行への期待を語った。

 小谷氏は次期社長として,「経営意思決定のスピード・アップが最重要課題だと考えている。できなければ,企業として生き残れないという強い危機感を持っている。あらゆる対策を早急に進め,構造改革を成し遂げる」と述べた。2009年度か2010年度には営業利益の黒字化を実現し,5年ほどかけて財務体質の改善を図る。

 今後の取り組みについて,小谷氏が「苦しい課題を持った事業が多い」と評するのはホームエレクトロニクス部門である。中でも最大の課題としたのはディスプレイ事業だが,構造改革を計画通りに進めており,2009年には効果が見込めるとする。「全て自前でまかなうのは時代遅れ」(小谷氏)と,パネル調達について協業を進める。PDPの供給をパナソニックから,液晶パネルの供給をシャープから受ける。これまでPDPに注ぎ込んでいたリソースを他の成長分野へ再配分が可能になるとする。例えば,Blu-ray装置は市場が急速に立ち上がると見て,来期には「かなり強力な」(小谷氏)新製品に入れ替える計画だ。そのほかのAV機器でも,現在主力の上位機種から下方へ製品を展開することで,狙える市場を広げる。さらに,協業についても単なる部品供給にとどめずに,開発リソースの一つとして,両社の技術の活用や新製品の共同開発の実現に期待する。

 一方,カーエレクトロニクス部門については十分改善できるとの見込みを示した。対策の一つとして挙げるのが,BRICsなど新興国市場の獲得である。ブラジルや中国,インドに向け,今まで同社が力を入れていた上位機種と中国メーカーなどが強い低価格機種の間を埋める,中間機種のカーナビや,CDプレーヤーなどに力を入れるとする。今後の普及率の向上が見込めるため,特にOEM供給に注力したいとする。そのほかの対策として,開発・製造・販売・物流などにおけるコスト削減はもちろんのこと,増加するソフトウエア開発投資を圧縮するための協業もあり得るとした。

 報道陣からの,最近は魅力ある製品を出せていないのではないかとの問いに,須藤氏は「昨今の業績悪化は,『パイオニア発(の),世界初』が少なくなっていることもあるだろう」と答えた。新しい製品を作り出せなければヒット商品は生み出せず,企業としての再浮上も見込めないという危機感から,価値ある製品を生み出しやすい仕組みにしようと,現在根本的な変革に取り組んでいるという。小谷氏は「今は明らかにできないが,有望な研究開発は出てきている。研究者は自分の興味に応じて研究を進める傾向が強いので,なかなかものにならない。これからは研究者に目標を持って研究に臨んでもらい,リソースを集中して短期間でものにするようにしていきたい」とした。