MOSトランジスタで発生するランダム・テレグラフ・シグナル・ノイズ(RTS雑音)。20~30年以上前から研究されているが,未だに原因が特定されていない。MOSの微細化が進み,最近ではその影響が顕在化してきた。東北大学は独自のTEGを使ってRTS雑音の解明を進めている。その最新の成果が報告された。
この報告は,電子情報通信学会の集積回路研究会と映像情報メディア学会の情報センシング研究会が北海道大学で2008年10月22日~24日に共催した研究会の招待講演として行われた。講師は,東北大学教授の須川成利氏(東北大学大学院工学研究科技術社会システム専攻)が務めた。
キャリア1個で誤動作も
RTS雑音は,MOSトランジスタのチャネル内を移動するキャリア(電子/正孔)の一つが,ゲート絶縁膜中などに存在するトラップ準位に捕獲される現象を言う。そしてある時間が経つと,捕獲されたキャリアはチャネル中に放出される。この現象が発生すると,デジタル回路のしきい値電圧Vが変わり,最悪の場合にはキャリア1個によって誤動作が起きる。またCMOSイメージ・センサーでは,ある画素がまたたくように観察されたりする。
回路全体を考えると,RTS雑音が起こるトランジスタは極めて少ないが,必ず起こる。しかもランダムに発生する。このためLSIテスター上では不良が発見されないが,フィールドに出すと不良がおこり,それを回収してLSIテスターで検査すると不良が見つからないことが起きる。厄介もののRTS雑音の影響は,微細化が進むにつれて顕在化してきている。
大型TEGを用意
須川氏によれば,RTS雑音は20~30年前から研究されているが,原因が特定されておらず,有効な対策も知られていない。同氏らのグループは,独自のTEG(test element group)を開発して,RTS雑音の解析を進めている。このTEGの一番の特徴は大規模なことで,短時間に高精度に解析できるようにしたことである。1ウエーハ当たりでは1億3500万個のトランジスタが載る。
今回の講演では,このTEGを使ってRTS雑音を測定/解析した結果を発表した。具体的には(1)同雑音のゲート絶縁膜材料に対する依存性や,(2)アンテナ比の依存性,(3)ドレインとソースを入れ替えたときのRTS雑音の変化,(4)ゲート・リーク電流とドレイン-ソース電流のRTS雑音の測定結果などである。